この記事のポイント
- 日本企業のAI導入状況と国際的な立ち位置を解説
- ソフトバンク、メルカリなど注目の企業事例を紹介
- AI導入で業務効率向上や新サービス開発などの効果
- AI導入のメリットとデメリットを分析
- バランスの取れたAI戦略の重要性を提示
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
AIの導入は、今日のビジネス環境で国際競争力を維持するための重要な要素です。 日本国内ではAI導入が一部で効果を生んでいる一方、足踏み状態の企業も多く見受けられます。
本記事では、日本のAI導入状況の全体像に迫るとともに、注目すべき企業事例を挙げてAI導入のメリットを深堀りします。
さらに、新たな技術の落とし穴とも言えるデメリットについても解説し、バランスの取れたAI導入戦略の重要性について考察します。
目次
日本企業のAI(人工知能)導入状況
近年、AI産業は目覚ましい進化を遂げていますが、日本企業のAI導入状況は他国に遅れをとっています。
国別AIランキングの推移を見ると、2020年以降、米国、中国、イギリスが上位を占めており、日本は2020年に8位、2021年に9位、2022年には10位と順位を下げています。
国別AIランキング(Top10)の推移 (引用:令和5年版情報通信白書)
日本の企業におけるAI導入事例10選
日本国内では、様々な業界でAIが導入されていますが、2022年までの導入率は10〜15%程度にとどまっています。
一方で、AIを導入し業務効率の向上やコスト削減を実現した企業も多数存在します。
これらの事例は、日本企業のAI導入に対する姿勢と技術の経営への統合方法を示し、成功への道筋を提供しています。
企業におけるIoT・AI等のシステム・サービスの導入状況 (引用:令和5年版情報通信白書)
以下に、日本国内におけるAIの導入事例10選を詳しく紹介します。
ソフトバンク
ソフトバンク株式会社は、全従業員約2万人を対象に社内向けのAIチャットサービスを導入しました。
これにより、文章作成や翻訳、営業マーケティング、サービス開発など多岐にわたる業務の生産性向上が期待されます。
また、新たな価値創出や社会問題の解決に貢献することも期待されます。
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➡ソフトバンク、全従業員対象に生成系AIチャットを導入
メルカリ
株式会社メルカリは、「メルカリAIアシスト」という新機能を導入しました。
生成AI大規模言語モデル(LLM)を利用して、出品商品の情報を分析し、改善提案を行うことで商品の売れ行きを向上させることを目的としています。
出品者は商品ページ最適化のアドバイスを受けられ、販売機会の増加が期待されます。
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➡メルカリ、AIを活用したパーソナライズドアシスト機能を導入
イオンリテール
イオンリテールは、独自開発した「AIオーダー」システムを国内の約380店舗で導入しました。この新システムは、顧客数や売上データを分析し、様々な要素を考慮して最適な発注数を自動算出することができます。
従来のシステムでは客数の予測や在庫の管理に課題があり、品切れや過剰発注が発生していたのですが、この新システムの導入によって、発注作業時間の約50%短縮、発注精度を最大40%の改善を達成しました。
これにより、在庫削減や従業員の業務効率化が実現されました。
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➡イオンリテールが開発した「AIオーダー」システム、380店に導入で発注作業改革
AVA Travel
旅行情報提案サイト『AVA Travel』は、AI旅行相談機能で「アソビュー!」と連携を強化し、日本全国の約2.8万件の遊び・体験プログラムからユーザーの好みに合わせた提案が可能になりました。
これにより、観光地や宿泊施設、遊び体験など幅広い選択肢の中から最適なプランを見つけることができます。
今まで、旅行計画の際には、必要な情報を検索し、選択するのが難しいという課題がありました。特に、地域ごとの多様な遊び体験を探すのに多大な時間がかかっていました。
AVA TravelはAIを活用してユーザーの要望に基づいた旅行プランを提供、アソビューとの連携で、多様な遊び体験を含むトータル旅行プランを提案できるようになりました。
ユーザーは効率的に旅行プランを作成・予約することができ、長期休みの旅行計画が時短できることが期待されます。
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➡AIが提案するオーダーメイド旅行:AVA Travelがアソビューと連携強化
食べログ
食べログは、OpenAIのChatGPTを活用したプラグインを導入しました。従来、レストラン検索と予約には多くの手間と時間がかかっていました。
しかし、ChatGPTプラグインにより、ユーザーは希望条件を伝えるだけで検索が行え、最新の空席情報を基にスムーズに予約することができるようになりました。
この機能によって、サービスの使い勝手と顧客満足度を一層向上させることが期待されています。
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➡食べログがChatGPTプラグインをローンチ!AIを活用したレストラン予約検索の新時代
スガキコシステムズ
スガキコシステムズ株式会社は、名古屋大学発のAIスタートアップTRYETINGのノーコード予測AIプラットフォーム「UMWELT」を導入し、食品ロス削減とDX推進を加速させています。
以前は人間の売上予測に依存していましたが、大量のデータ集計や分析に多くの時間とコストがかかっており、精度の向上と更なるコスト削減が求められていました。
「UMWELT」の導入により、予測精度の向上、余剰在庫の削減、現場の作業効率化を実現しました。これにより、食品ロス削減とコスト削減にも成功しました。
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➡スガキヤ展開企業がAI需要予測で食品ロス削減とDXを加速
ベネッセ
ベネッセは、260万人分の学びのビッグデータとAIを活用し、個別化された学びを実現しました。これにより、一人ひとりの学習状況に応じた教材提供が可能となりました。
従来のサービスでは学習の継続や学習効率の向上が課題でした。また、一人一人に合わせた学習体験が提供できていないという課題もありました。
開発された「AI StLike」では、データ分析に基いて一人一人に最適な学習ルートを提案することができ、利用者の正答率が約20%アップしたいうデータもあります。
また、eラーニングを活用したコンテンツなどの中から特に優れたものを選出する「日本e-Learning大賞 経済産業大臣賞」を受賞しました。
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➡個別化学習の可能性を広げるベネッセのDX戦略:AIを活用した教育の進化
日本テレビ
日本テレビが開発したAIモザイク編集ソフト「BlurOn」が、映像情報メディア学会から技術振興賞を受賞しました。
従来の手作業によるモザイク編集は時間がかかり、制作現場の負担になっていましたが、「BlurOn」の導入により作業時間が最大90%削減されました。
この効果は放送業界に留まらず、他の業界でも個人情報保護に役立っています。
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➡日本テレビのAIモザイクソフト「BlurOn」が技術振興賞を受賞
大和ハウス
大和ハウス工業株式会社は、従業員約18,000人からの多様な問い合わせに対応するため、「AI ヘルプデスク for Microsoft Teams」を導入しました。
AIヘルプデスクは、Microsoft Teams上でバーチャルな問い合わせ窓口を設置し、FAQの自動生成やナレッジの蓄積をなどを行います。
背景には、テレワークの普及に伴う問い合わせの複雑化があり、人事部門の業務効率化と高品質な対応が求められていました。
AIヘルプデスクの導入により、問い合わせ対応の効率化が図られ、従業員満足度の向上と管理部門の工数削減が実現されました。
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➡大和ハウスがAIヘルプデスクを導入し従業員サポートを革新
ブリヂストン
ブリヂストンは、現場での経験とAIを融合し、タイヤ耐久予測アルゴリズムを開発。次世代タイヤモニタリングシステム「Bridgestone iTrack」からのデータを活用し、最適なメンテナンス時期と運行ルートを提案します。
この導入により、タイヤコストとダウンタイムの削減、生産性と経済価値の最大化を実現しました。また、タイヤの使用本数削減により、資源生産性の向上とサステナビリティの向上にも貢献します。
【関連記事】
➡ブリヂストン:AIを活用したタイヤ耐久予測による新ソリューション
上記で紹介した事例以外にも、医療、金融、クリエイティブ産業など、様々な分野でChatGPTの活用が広がっています。
詳しくは以下の記事で50の活用事例を紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
ChatGPTの活用事例50選!業界別の事例や活用時のポイントを徹底解説 | AI総合研究所
ChatGPTのビジネス活用事例や業務効率化事例を紹介。20の企業事例と30の自治体事例を交えて、ChatGPTの導入メリットや活用ポイント、注意点について解説します。
https://www.ai-souken.com/article/chatgpt-in-business-case-studies
AIを導入するメリットとデメリット
メリット
- 業務効率の向上
繰り返し作業やデータ処理を自動化することで、迅速かつ効率的に業務を遂行できます。
これによりコスト削減の実現、自動化による人件費や運用コストの削減、在庫管理や発注の最適化が可能となります。
- マーケティングの強化
顧客データを分析して、顧客の好みや購買パターンを理解することで、個人にあわせたキャンペーンを実施することができます。
- トレンド予測
AIは過去のデータを分析して、未来のトレンドや顧客の行動を予測します。
これにより、企業は先を見越してマーケティング戦略を策定することができ、競争優位を保つことができます。
デメリット
- 雇用問題
AIの導入により、特定の職業や業務が自動化されることで、人間の労働者が不要になる可能性があります。これにより、一部の労働者が職を失い、失業率が上昇する懸念があります。
- コストの増大
AIシステムの開発、導入、運用には高いコストがかかります。特に小規模な企業やスタートアップにとっては、初期投資や維持費用が大きな負担となることがあります。
- セキュリティリスク
AIシステムがサイバー攻撃の対象となり、自動化されたシステムがハッキングされると、大きな被害をもたらす可能性があります。
【関連記事】
AIの活用・導入におけるメリットとデメリットをわかりやすく解説! | AI総合研究所
AI技術の活用は、ビジネスの効率向上や個人向けサービスの充実など多くのメリットをもたらしますが、同時にリスクも伴います。具体例を交えながらAIの利点と注意点をわかりやすく解説し、適切な運用のための参考情報を提供します。
https://www.ai-souken.com/article/ai-advantages-disadvantages
まとめ
本記事を通じて、日本におけるAI導入の現状と導入している企業の例を紹介しました。AI技術は、ビジネスモデルの革新、作業の最適化、新たなサービスの提供などを加速させ、産業構造そのものを根本から変える力を持っています。今後もAIの活用はますます広がりを見せ、多様な業界で新たな価値を創造することとなるでしょう。
一方で、AIの導入にはでデメリットも存在しているため、メリットとデメリットの両方を検討し、適切にAIを活用していくことが大切です。