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需要予測AIとは?その仕組みやアルゴリズム、導入事例を徹底解説!

この記事のポイント

  • AI需要予測の概要、目的、手法を解説
  • 小売業、製造業、エネルギー業界での活用事例を紹介
  • AI需要予測のメリットとデメリットを考察
  • 効果的な需要予測のための課題と解決策を提示
  • ビジネスの意思決定を支援する情報を提供

監修者プロフィール

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

AIによる需要予測は、現代のビジネスにおいて市場の変動に迅速かつ効率的に対応するための重要な役割を果たしています。

本記事では、AI需要予測の概要や目的、様々な手法、そしてそのメリットとデメリットについて深く掘り下げます。
また、小売業、製造業、エネルギー業界での実際の活用事例を通して、AI需要予測がビジネスにもたらす利点と、実装における課題について考察します。

高品質なデータと専門知識を組み合わせることで、市場の変化に適切に対応し、効果的な戦略を策定するための一助となる情報を提供します。

需要予測AIとは

需要予測はAI予測の一種であり、人工知能技術を活用して将来の市場需要を予測することを指します。
この技術は従来の手法に比べ、「大量の過去のデータを分析して未来のトレンドやパターンを予測」するため、企業が在庫管理、生産計画、価格戦略などの意思決定をより効率的に行えるようになります。

特に、機械学習アルゴリズムを使用することで、需要変動が複雑で不透明な場合にも優れた予測精度を実現することが可能となります。

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需要予測の目的と重要性

需要予測の主な目的は、供給の最適化を図り、売上損失を避けると同時に在庫過剰を抑制することです。
予測した需要に基づいて生産量を調整し、適切なタイミングで製品を市場に投入することで、顧客満足度の向上と効率的な運営を実現できます。

また、需要予測はプロモーションや新製品の投入計画にも影響を与え、組織全体の戦略策定において重要な役割を果たします。
正確な需要予測は、ビジネスが市場環境の変化に迅速に適応し、最大限の利益を実現するための鍵となります。

需要予測とは
需要予測の概要 (参考:経産省)


需要予測のアルゴリズムと手法

需要予測は様々な手法とともに発展してきました。中でも、AIや機械学習は非常に強力なツールであり、移動平均法、指数平滑法、ARIMAモデル、回帰分析などの代表的な手法に活用されています。

ここでは、それぞれの手法について解説します。

移動平均法

移動平均は、過去のデータポイントの平均値を計算するシンプルな手法です。短期間の平均(短期移動平均)と長期間の平均(長期移動平均)を比較することで、トレンドを把握します。

この手法は、データのランダムな変動を滑らかにして、トレンドを明らかにするのに有効ですが、急激なトレンドの変化には遅れて反応する傾向があります。

指数平滑法

指数平滑法は、最近のデータに重みをより多く置き、過去のデータには徐々に重みを減らす方法です。

単純指数平滑法は一定のトレンドを持たないデータに適していますが、データにトレンドや季節性が存在する場合、二重指数平滑法(トレンドを考慮)や三重指数平滑法(トレンドと季節性の両方を考慮)が使用されます。

自己回帰移動平均モデル (ARMA) と自己回帰積分移動平均モデル (ARIMA)

ARMAモデルは、時系列データの自己回帰(AR)部分と移動平均(MA)部分を組み合わせたもので、定常性を持つ時系列データに適しています。
一方、ARIMAモデルは非定常性時系列データに対応できるようにARMAモデルを拡張したもので、データを差分化することで定常性をもたせ、その上でARMAモデルを適用します。

これらのモデルは、時系列データの複雑なダイナミクスを捉える能力があります。

季節性自己回帰積分移動平均モデル (SARIMA)

SARIMAモデルは、ARIMAモデルを季節性のあるデータに適用できるように拡張したものです。このモデルは、非季節性のトレンドと季節性の両方を同時にモデリングすることができ、特に季節性が強い時系列データの予測に適しています。

例えば、夏は水着がよく売れるといったようなことです。

回帰分析

回帰分析は、需要に影響を与える一つ以上の独立変数(予測因子)と依存変数(需要)との関係をモデリングします。

線形回帰や多項式回帰などがあり、これらの手法は、外部要因やプロモーション効果など、時系列データ以外の変数が需要に与える影響を考慮する場合に有効です。


AIによる需要予測のメリットとデメリット

AIによる需要予測には、多くのメリットがありますが、一方で注意すべきデメリットや課題も存在します。

需要予測AIのメリット

AI技術を活用した需要予測の最大のメリットは、予測の精度と速度の向上です。自動化によって迅速なデータ分析が可能となり、より詳細な予測が行えます。
これにより、売れ筋商品の在庫不足や過剰在庫によるロスを減らし、供給の最適化とコスト削減に繋がります。

また、AIモデルは複雑な需要パターンを捉えることができるため、従来の手法では見落とされがちな要因も考慮した予測が可能になります。

デメリットと課題

しかし、AIによる需要予測では、正確な予測を行うための高品質で十分な量のデータを確保する必要があります。
データの収集と整理には多大な労力が必要となる場合があり、欠落データや外れ値の扱いなどデータ管理に関する課題も生じます。

更に、モデルが複雑になればなるほど、その解釈が困難になり、専門知識を要することがあります。

AIモデルの予測結果を過信せず、人間の判断と組み合わせて活用することが重要です。


AIを用いた需要予測の一般的なプロセス

AIを用いた需要予測は、通常以下のようなプロセスで行われます。

  • データの収集と前処理
    過去の販売データ、価格、プロモーション情報、経済指標などの関連データを収集し、欠損値の処理や外れ値の除去などの前処理を行います。

  • 特徴量の選択と設計
    需要に影響を与える要因を特定し、モデルの入力となる特徴量を選択・設計します。

  • モデルの選択と学習
    予測対象やデータの特性に応じて適切なモデル(移動平均法、指数平滑法、ARIMAモデル、回帰モデルなど)を選択し、データを用いてモデルを学習させます。

  • モデルの評価とチューニング
    学習したモデルの予測精度を評価し、ハイパーパラメータの調整などによってモデルを最適化します。

  • 予測の実行と結果の解釈
    最適化されたモデルを用いて需要予測を行い、結果を解釈して意思決定に活用します。

実データでの需要予測の実施

それでは実際に需要予測を行ってみます。
今回は模擬データとして、kaggleでオープンにされているスーパーマーケットの売り上げデータを使用します。

移動平均法で予測

移動平均法は、データの最近の変動を捉えつつ、過去のデータを平滑化するために広く使用されるシンプルな方法です。

移動平均法結果のグラフ
移動平均法グラフ


上のグラフには、実際の月次売上(青色の線と点)と3ヶ月移動平均による予測(点線)が表示されています。

また、次の月の売上予測値(赤色の点)も示されており、「3ヶ月移動平均法が未来の売上をどのように予測しているか」を視覚的に確認できます。

3ヶ月の移動平均法を使用した結果、次の月の売上予測値(ドル)は70,152.68となりました。

指数平滑法で予測

指数平滑法は、最近の観測値に大きな重みを置きつつ、時間の経過と共にその重みを指数的に減少させることで、データの平滑化を行います。

指数平滑法結果のグラフ
指数平滑法グラフ


上のグラフには、実際の月次売上(青色の線と点)と、単純指数平滑法による適合値(点線)が表示されています。

また、次の月の売上予測値(赤色の点)も示されており、「単純指数平滑法が未来の売上をどのように予測しているか」を視覚的に確認できます。

単純指数平滑法を使用した結果、次の月の売上予測値(ドル)は66,680.39となりました。

ARMAとARIMAで予測

ARMAとARIMAは時系列データの自己相関を考慮してより複雑なパターンを捉えることができます。

ARMAモデルは、時系列データが定常性(平均、分散が時間に依存しない性質)を持つ場合に適しています。一方、ARIMAモデルは非定常性データ(トレンドや季節性の変動を含む)に対しても適用可能です。

予測に先立って、データの定常性を確認し、必要に応じてデータを変換することが一般的です。
ただし、このプロセスは複雑であり、適切なモデルのパラメータ(ARの次数、MAの次数、差分の次数)を選択する必要があります。

ここでは、まずデータの定常性を確認せずに、単純化されたアプローチで進めます。ARMA(1,1)モデルとARIMA(1,1,1)モデルを試し、未来の売上を予測します。
ARMA結果のグラフ
ARMA結果のグラフ


ARIMA結果のグラフ
ARIMA結果のグラフ


ARMA(1,1)モデルとARIMA(1,1,1)モデルを使用した予測結果は以下の通りです。

ARMA(1,1)モデルによる次の月の売上予測値(ドル): **61,560.39**

ARIMA(1,1,1)モデルによる次の月の売上予測値(ドル): **64,741.40**

回帰分析で予測

回帰分析を使用して売上予測を行う場合、時間を独立変数(予測子)として、売上を従属変数(目的変数)とするモデルを構築します。
ここでは、線形回帰モデルを使用して月次売上データに基づく予測を行います。線形回帰モデルは、データ間の関係が直線的であると仮定します。

回帰分析結果のグラフ
回帰分析結果のグラフ


上のグラフには、実際の月次売上(青色の線と点)と、線形回帰モデルによる予測(点線)が表示されています。

また、次の月の売上予測値(赤色の点)も示されており、「線形回帰モデルが未来の売上をどのように予測しているか」を視覚的に確認できます。

線形回帰モデルを使用した結果、次の月の売上予測値は64,527.54となりました。

予測結果

それぞれの手法で予測した結果をまとめると、以下の通りです。

手法 予測結果 (ドル)
移動平均法 70,152.68
指数平滑法 66,680.39
ARMA 61,560.39
ARIMA 64,741.40
回帰分析 64,527.54

このように手法によって予測結果が異なることがわかります。
それぞれの手法にはそれぞれの特色があるので、状況に則った手法を選択することが大切です。


AI需要予測の活用事例

AIを活用した需要予測は、小売業、製造業、エネルギー業界など、様々な分野で活用されています。
ここでは、各業界でのAI需要予測の活用事例を詳しく解説します。

小売業

小売業界では、AIを用いた需要予測が在庫管理、価格設定、商品配置、プロモーション計画など、様々な意思決定プロセスを効率化し、最適化するために利用されています。

AIモデルは、過去の販売データ、季節性、天候、祝日、社会的イベント、消費者トレンドといった多様な要因を分析して、特定の商品やサービスの将来の需要を予測します。

実際にローソンでは、2015年から需要予測発注システムの導入拡大に取り組んでおり、2024年にその集大成ともいえる「AI.CO(AI CustomizedOrder:アイコ)」を開発しました。

これにより、2025年の既存店舗の粗利は70億円伸びると予想されています。

ローソンによる自社データを活用した需要予測
自社データを活用したレコメンド・需要予測 (参考:ローソングループ Challenge 2025の概要)

製造業

製造業では、AIによる需要予測が生産計画や在庫管理の改善に寄与しています。正確な需要予測により、製造業者は生産量を適切に調整し、余剰在庫のリスクを減らし、供給チェーンの効率性を高めることができます。

例えば、ニュートラル株式会社が開発したAIツール「NTech Predict」は、データサイエンティストがいない企業でも高度な予測分析を可能にする、完全なノーコードツールです。

専門知識を持つ人材がいなくても、誰でも簡単にAIを活用して需要予測や時系列予測などの分析作業を行うことができ、ノウハウを自社内に蓄積し、内製化に繋げることができます。

予測分析ツールntech predict
予測分析ツールNTech predict (参考:PR TIMES)

エネルギー業界

エネルギー業界では、AIを活用した需要予測により、エネルギーの供給と需要のバランスを最適化し、効率的なエネルギー管理を実現しています。
清水建設が開発した街区熱融通システム「ネツノワ」は、その代表的な事例です。

清水建設が開発した「ネツノワ」は、AI機能を備えたCEMSにより、街区内の建物群の熱需要を高精度に予測し、熱源機器群の運転制御を最適化することで、エネルギー消費量とCO2排出量の大幅な削減を図る革新的なシステムです。

このようなAIを活用した高度なエネルギー管理は、ピーク時の供給最適化や再生可能エネルギーの効率的活用を可能にし、脱炭素社会の実現に貢献すると期待されています。

清水建設のエネルギー需要予測AI
清水建設のエネルギー需要予測AI (参考:清水建設)


まとめ

AIによる需要予測は、小売業、製造業、エネルギー業界など様々な分野で活用され、ビジネスに大きな影響を与えています。ローソンの「AI.CO」、ニュートラル株式会社の「NTech Predict」、清水建設の「ネツノワ」など、具体的な事例からもAI需要予測の有効性が示されています。

しかし、AIによる需要予測を成功させるためには、高品質なデータの確保、適切なモデルの選択と理解、継続的なトレンド分析など、いくつかの課題に取り組む必要があります。専門知識を持つ人材の育成や、AIモデルの予測結果を人間の判断と組み合わせて活用することも重要です。

これらの課題を克服し、AIによる需要予測の潜在能力を最大限に引き出すことができれば、企業はより効率的な運営と戦略的な意思決定を行うことができるでしょう。AIによる需要予測は、ビジネスの未来を切り拓く強力なツールとなる可能性を秘めています。

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監修者

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

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