この記事のポイント
- この記事は2024年のAI研究ランキングに関する情報を提供しています。
- AI研究の世界的なランキングでは、中国とアメリカの研究機関が上位を占めています。
- ランキングは「Adjusted Publication」と「AI指数」を基準にしており、各国の研究機関の活動を評価しています。
- アメリカ、中国、日本の具体的なAI研究事例を挙げ、それぞれの研究内容を詳しく紹介しています。
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
AI研究の動向は、技術革新を推進する上で無視できない要素です。世界中の研究者や機関が激しい競争を繰り広げる中、注目されるのは誰が最先端を行くかというランキングです。
今回の記事では、2024年のAI研究ランキングを紹介し、AI研究の最前線を明らかにしていきます。このランキングを通じて、各国・研究機関がどのような研究を行っているのか、どのような成果が得られているのかを解説し、その意義に迫ります。
さまざまな視点からAIの最新の動向を伝えることで、読者の皆様がAIの世界に一層の理解を深め、可能性を感じ取っていただける内容となっています。
目次
AI研究ランキング
AI(人工知能)は現代の技術革新の中心に位置し、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。
特に、AI研究は学術界や産業界において急速に進展しており、優れた研究者や機関が数多く存在します。本記事では、AI研究のトップランクに位置する研究者や機関を紹介し、AI研究の現状と注目すべきポイントについて詳しく解説します。
ランキングの基準
主な指標として、Adjusted Publicationと AI指数(AI Index) が存在します。Adjusted Publicationは主要なAI学会での論文数に基づいており、AI指数は選択されたAI分野のAdjusted Publicationの幾何平均を計算することで評価されます。
本記事では、AI研究の総合的かつ学際的な評価方法であるAI Indexをランキングを掲載しました。
【大学別】AIの研究機関ランキングトップ10
はじめに、研究機関(大学)別のランキングを見ていきましょう。
2024年研究機関ランキングトップ10
ランキング | 研究機関名 | 国名 | 著者数 | Adjusted Publications | AI Index |
---|---|---|---|---|---|
1 | 北京大学 | 中国 | 34 | 79.0 | 3.98 |
2 | 浙江大学 | 中国 | 27 | 84.3 | 3.73 |
3 | 清華大学 | 中国 | 27 | 61.1 | 3.62 |
4 | カーネギーメロン大学 | アメリカ | 20 | 47.9 | 2.68 |
5 | 上海交通大学 | 中国 | 21 | 51.6 | 2.61 |
6 | 南洋理工大学 | シンガポール | 18 | 54.8 | 2.53 |
7 | 中国科学院 | 中国 | 20 | 46.0 | 2.47 |
8 | アリゾナ州立大学 | アメリカ | 9 | 26.8 | 2.11 |
9 | オックスフォード大学 | イギリス | 11 | 25.5 | 2.10 |
10 | シンガポール国立大学 | シンガポール | 16 | 35.9 | 2.07 |
(2024年1月1日から6月3日確認時点)
研究機関ランキングの考察
軒並み海外大学が多い、研究機関ランクングですが、その特徴を解説します。
1. 中国の強い存在感
- ランキングの支配: トップ10のうち6つの機関が中国からランクインしており、北京大学、浙江大学、清華大学がトップ3を占めています。これにより、中国がAI研究において重要な役割を果たしていることがわかります。
2. アメリカの優れた研究機関
- 高評価の維持: カーネギーメロン大学(4位)とアリゾナ州立大学(8位)がアメリカの代表としてランクインしており、依然としてAI研究において高い評価を受けています。
3. 地理的な多様性
- 広範な地域からのランクイン: 南洋理工大学(6位)、シンガポール国立大学(10位)、オックスフォード大学(9位)など、アジアとヨーロッパの機関も上位にランクインしています。これは、AI研究が様々な地域で行われていることを示しています。
4. Adjusted Publicationsの重要性
- 質の評価: Adjusted Publicationsは、AI Indexの算出において重要な指標であり、論文の質や発表された学会の重要度を考慮しています。例えば、浙江大学はAdjusted Publicationsが84.3と最も高いですが、AI Indexでは3.73で2位にランクインしています。
2024年の研究機関ランキングからは、中国とアメリカがAI研究をリードしていることが数字として表されています。
日本最高峰の大学である東京大学は22位にランクインしてはいますが、世界的に見ると日本のAI研究がもう一歩進んでほしい気持ちにもなってしまいますね。
【国別】AI研究機関ランキングトップ10
これまでは研究機関別のランキングを見てきましたが、ここからは国別のランキングを見ていきましょう。
2024年国ランキングトップ10
ランキング | 国名 | 研究機関数 | 著者数 | Adjusted Publications | AI Index |
---|---|---|---|---|---|
1 | アメリカ | 142 | 829 | 861.3 | 35.68 |
2 | 中国 | 30 | 459 | 788.9 | 25.62 |
3 | イギリス | 37 | 233 | 237.0 | 13.74 |
4 | ドイツ | 47 | 149 | 176.1 | 9.58 |
5 | オーストラリア | 12 | 117 | 143.3 | 8.82 |
6 | カナダ | 24 | 110 | 121.7 | 6.59 |
7 | シンガポール | 4 | 64 | 107.2 | 5.05 |
8 | 韓国 | 7 | 64 | 104.8 | 4.50 |
9 | インド | 21 | 62 | 69.8 | 3.80 |
10 | スイス | 5 | 30 | 42.7 | 3.68 |
国別AI研究機関ランキングの考察
1. アメリカと中国の強力な存在感
- 主導的な役割: 数値やグラフからもわかるように、アメリカと中国がAI研究において主導的な立ち位置にいます。アメリカは最も多くの研究機関(142)と著者数(829)を持ち、最も高いAI Index(35.68)を記録しています。中国も30の研究機関と459人の著者を擁し、AI Indexは3位と比較し約2倍の25.62で、2位にランクインしています。
2. イギリス、ドイツ、オーストラリアの重要性
- ヨーロッパとオセアニアの存在感: イギリス(13.74)、ドイツ(9.58)、オーストラリア(8.82)が上位にランクインしており、これらの国々がAI研究において重要な役割を果たしています。
3. 地理的多様性の広がり
- 多様な地域からの貢献: カナダ、シンガポール、韓国、インド、スイスもトップ10にランクインしています。これにより、グローバルにAI研究が行われていることがわかります。
4. 日本のランクイン
- 日本のランキング位置: 日本は11位にランクインしています。7つの研究機関と50人の著者を擁し、Adjusted Publicationsは55.2、AI Indexは3.03です。これは、日本がAI研究において一定の存在感を維持していることを示していますが、トップ10には惜しくも届いていません。
2024年の国別ランキングでは、アメリカと中国がAI研究を牽引していることがわかります。
日本は11位にランクインし、一定の存在感を維持していますが、トップ10には届いていません。
AI研究の代表国における研究内容
ここまでのランキングで2024年のAI研究はアメリカと中国を筆頭に全世界で行われており、日本のAI研究は11位と上位にはランクインしていないことがわかりました。
ここでは、AI研究の代表国であるアメリカと中国、そして日本の具体的なAI研究内容を見ていきましょう。
アメリカの研究内容
全世界研究機関別ランキングで4位(アメリカの研究機関内では1位)にランクインしたカーネギーメロン大学のKun Zhangさんが、2024年3月24日に出版した論文である「ACAMDA: Improving Data Efficiency in Reinforcement Learning through Guided Counterfactual Data」をご紹介します。
【参照サイト】
➡Proceedings of the AAAI Conference on Artificial Intelligence
研究概要
この研究では、強化学習(Reinforcement Learning, RL)のデータ効率を向上させるための新しい方法であるACAMDA(Adversarial Causal Modeling for Data Augmentation)を提案しています。強化学習は、機械が環境と相互作用しながら最適な行動を学ぶ方法ですが、大量のデータが必要であるという課題があります。ACAMDAは、データを効率的に増やすための方法として「反事実データ拡張」を使います。
反事実データ拡張とは?
反事実データ拡張は、既存のデータを基に仮想的なデータを生成する手法です。例えば、「もしこの時に別の行動を取っていたら、結果はどうなっただろう?」というシナリオを作り出します。これにより、実際に収集するデータの量を減らしながら、さまざまなシナリオを学習することができます。
研究結果
この研究の結果、ACAMDAを使用することで以下のような成果が得られました。
-
データ効率の向上:
- 少ないデータでより高い学習効果が得られるようになりました。これにより、データ収集のコストと時間を大幅に削減できます。
-
異なる環境での適応力の向上:
- 異なる状況や環境に対しても、学習したポリシーがうまく適応することが確認されました。これにより、実際の適用範囲が広がります。
-
高い汎化性能:
- ACAMDAは、従来の手法に比べて、新しい状況や未知の環境での性能が優れていることが実証されました。
中国の研究内容
全世界研究機関別ランキングで1位にランクインした北京大学のYuxin Pengさんが2024年3月24日に出版した「Comprehensive Visual Grounding for Video Description」をご紹介します。
【参考サイト】
➡Proceedings of the AAAI Conference on Artificial Intelligence
研究概要
この研究では、ビデオの内容を正確に説明するための新しい方法を提案しています。ビデオ記述は、ビデオ内の物体や動作を言葉で表現する技術ですが、現在の方法では正確に表現するのが困難です。この研究では、ビデオの全体にわたって物体や動作を追跡し、リンクすることで、より正確な説明が可能になります。
研究結果
この研究の結果、以下の成果が得られました。
-
ビデオ記述の精度向上:
- ActivityNet-EntitiesデータでCIDErスコア(ビデオ記述の評価指標)が+2.3向上。
- MSR-VTTデータセットでCIDErスコアが+2.2向上。
-
評価結果:
- 研究内容は、複数のデータで比較することより他の最新手法よりも優れた性能を示しました。
今後の展望
-
実世界での応用:
- 特に自動運転、ロボット、医療診断などでの利用が期待されます。
-
多分野への適応:
- 他にも金融、エネルギー管理、スマートシティなど、幅広い分野での応用が可能です。
-
データ効率の向上:
- データ利用の効率が向上し、トレーニング時間とコストが削減されます。
日本の研究内容
全世界研究機関別ランキングで22位にランクインした東京大学の杉山 将さんが2024年2月29日に出版した「Optimal Community Detection with Vectorial Edges Covariates」をご紹介します。
【参考リンク】
研究概要
この研究では、ラベルノイズが含まれるデータセットに対する学習モデルのロバスト性を評価し、改善するための新しい手法である「BadLabel」を提案しています。
ロバスト性とは
ロバスト性とは、システムやモデルが外部からの影響や変動に対してどれだけ安定して機能するかを示す特性です。ラベルノイズが存在しても、高い精度を維持することが求められます。
研究内容
- 評価手法: BadLabelは、ラベルノイズの影響を評価するための新しい手法です。これにより、モデルがどの程度ラベルノイズに対して耐性があるかを評価できます。
- 改善手法: ラベルノイズを減らし、モデルの精度を向上させるための新しい学習アルゴリズムを提案しています。
研究結果
- ラベルノイズの影響を軽減:
- 提案手法を用いることで、ラベルノイズが存在するデータセットに対しても高い精度を維持することが確認されました。
- ロバスト性の向上:
- モデルのロバスト性が向上し、誤ったラベルが含まれていても学習の質が大きく低下しないことが示されました。
まとめ
本記事では、2024年のAI研究ランキングとともに、アメリカ、中国、日本の具体的なAI研究内容を紹介しました。
AI研究は日々進化しており、新しい手法や応用が次々と登場しています。今回紹介した研究成果は、その一部に過ぎませんが、AIが現代社会に与える影響の大きさと、今後の可能性の広がりを感じさせるものでした。AI研究の動向を追い続けることで、私たちは未来の技術革新の一端を知ることができるでしょう。
今後も最新の研究成果やランキング情報をもとに、AI研究の最前線を紹介していきたいと思います。読者の皆様には、この記事がAI研究の理解と興味を深める一助となれば幸いです。
引き続き、AI研究の進展に注目し、未来の可能性を探っていきましょう。
【参考リンク】