この記事のポイント
- この記事は野球界におけるAIの活用事例を紹介しています。
- AI技術は、データ解析、選手のパフォーマンス向上、試合の戦略立案に有効利用されています。
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
野球界では、AI(人工知能)の進化により、様々な変革が起きています。選手のパフォーマンス向上や戦略立案、審判のサポート、ファンエクスペリエンスの向上など、多岐にわたる活用方法が現れており、それらによって、従来の野球の見方や楽しみ方が一新されつつあります。
本記事では、選手の分析から試合の予測、さらには怪我の早期発見まで、幅広い範囲でのAI活用事例を紹介し、野球界に革新をもたらしている具体的な事例を解説していきます。
今後も進展が期待される野球界のAI技術、その最前線をぜひご覧ください。
目次
【選手のパフォーマンス分析】【戦略立案】福岡ソフトバンクホークス
【選手分析】野球選手の怪我の予防をサポートする姿勢推定AIアプリケーション
野球界におけるAI活用のメリット
AIは野球界においても重要な役割を果たしています。
以下で5点、そのメリットを解説していきます。
選手やコーチ、ファンにとって価値のある技術として、今後さらに普及し、進化していくことでしょう。
データ解析の高度化
野球では膨大なデータが生成されます。これらのデータを迅速かつ正確に解析することで、パフォーマンスの評価や戦略立案に役立てることができます。
(例)打者のスイング・投手の投球パターンを分析し、対策を立てる
選手のパフォーマンス向上
AIは選手個々の動きや技術を細かく解析し、改善点を具体的に指摘できます。効率的にトレーニングにより、パフォーマンスの向上が期待できます。
(例)バッティングやピッチングのフォーム解析・体力の管理などの科学的なアプローチ
試合の戦略立案
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AIは過去の試合データをもとに、相手チームの傾向や弱点を分析します。つまり、効果的な戦略を立案が可能になります。
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(例)特定の投手に対して有効な打者の配置や、試合中の状況に応じた戦術を提案する
審判のサポート
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AI審判は、ボールやストライクの判定、プレーの判定を正確に行います。これにより、人間の審判のミスを減らし、公平な試合運営が可能になります。
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(例)リプレイの判定・微妙なプレーの判定
ファンエクスペリエンスの向上
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AIを活用したデータ分析や解説により、ファンは試合をより深く理解し、楽しむことができます。
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(例)双方向のデータ表示やリアルタイムの解説など
AI審判
韓国プロ野球でのAI審判
この試合 AI審判がストライクを判定してます
— ALWAYS AKIRA (@sekai_yakyu_828) March 7, 2024
韓国プロ野球KBO
ABS 自動投球判定システムを導入
世界各国のトップリーグでAI判定制度が使用されるのは史上初めてとなる
AIが瞬時に判定→審判に伝達
フレーミングに惑わされない公正ジャッジ
一方で課題も 1:00 のシーン
ボールなのにストライク判定… pic.twitter.com/r8zTKrTjra
韓国プロ野球ではAI審判を一軍(メジャー)戦で導入しています。
これはセンター、一・三塁に設置されたカメラによる「自動ボール判定システム」(ABS)がジャッジするものを指します。ちなみに、AI審判は「ロボット審判」とも呼ばれますが、意味は同じです。結果はイヤホンを通じてその場にいる球審と三塁塁審に伝えられる、という仕組みです。
ただし、実際には伝達ミスでの誤審報道や、審判の正確性に疑問の声も上がってきているのが現状です。
今後は、人間とAIが互いに協働することで、ヒューマンエラーによる誤審とシステムエラーによる誤審の可能性を最小限にしていくことが求められそうですね。
米マイナーリーグ:自動ストライクゾーンシステム
米マイナーリーグのAAAでは2019年からマイナーリーグで自動ボールストライクシステムの実験を行っています。
性能については現在調整中で、新しいストライクゾーンの設定やピッチクロックの調整等が行われています。
当初の予定であった2025年のメジャーリーグでの使用は厳しいとされるものの、チャレンジ精度との併用により今後もその進展が継続的に続くと予想されます。
【参考記事】
2024 MiLB Rule Changes: New Triple-A Strike Zone, Pitch Clock Tweaks And More
AIによる選手・試合分析
【選手のパフォーマンス分析】【戦略立案】福岡ソフトバンクホークス
福岡ソフトバンクホークスの画像
福岡ソフトバンクホークスは高解像度カメラで撮影した選手の走攻守の動作データを人工知能(AI)で分析するシステムを導入しています。
これにより、守備位置や打球への反応速度、走塁のコース取りなど勘や経験に頼りがちだったプレー指導を科学的に進めることが可能になっています。
また、指標をもとに、より**戦略的な守備シフトの構築や走塁技術の向上などが期待されています。
【参考記事】
福岡ソフトバンクホークス ライブリッツ社の野球選手AIトラッキングシステムをチーム戦略に活用
【選手分析】AI動画解析アプリ「ForceSense」
AI動画解析アプリ「ForceSense」の画像
株式会社NineEdgeは、AIによる動画解析と、練習に役立つ各種の機能で、野球の上達を強力にサポートするアプリ「ForceSense」を提供しています。
アプリから動画を撮影しすぐに解析をすることができるので、その場で練習や試合に活かすことができるのが特徴です。特にフォームの改善において、客観的な解析を得る事ができるので、上達に役立てる事ができます。
自分の動画・解析データを振り返る事で自分の積み重ねを確認できるのも、モチベーションに繋がりそうですね。
【選手分析】ProPlayAI
PROPLAYAIの画像
ProPlayAIは選手のピッチングをAI解析するアプリを提供しています。
これは1台のカメラによる2Dビデオを3Dデータセットにマッピングし、解析することで高性能な分析を可能にしています。
Thanks to a partnership with @proplayai, all the participants of @TierSouth’s Winter Arm Care program will receive a biomechanics evaluation that will help us individualize the player’s plan. pic.twitter.com/Cpo6lu8hV0
— Wes Anderson (@WesAndersonPC) December 19, 2022
統計をもとに実際のスキルレベルを確認する事ができ、自分の強みと改善点が一目で分かるようになる点が特徴です。
一瞬の動きに対して、具体的な数値まで表示されるのは特に驚きですね。
【選手分析】野球肘の早期発見
京都府立医大と兵庫県立大では野球肘について、AI(人工知能)を用いて早期発見するプログラムを開発しました。
今回のプログラムは、野球ひじの中でも、「離断性骨軟骨炎(OCD)」と呼ばれる症状を早期発見するもので、今後は野球ひじ全体の早期発見につながるプログラムの応用も視野に入れています。
専門医不足や検診不足といった問題もAIのサポートにより、解決とは言わずとも良い方向に進んでいくことが期待されますね。
【関連記事】
「野球ひじ」AIで判定 けがの早期発見へ、大学の研究チームが開発
【選手分析】野球選手の怪我の予防をサポートする姿勢推定AIアプリケーション
Deep Nineの画像 (出典)PRTIMES
株式会社ACES・株式会社電通・株式会社GAORA・株式会社共同通信デジタルは野球選手の能力強化や特徴分析、怪我の予防をサポートする新たな姿勢推定AIアプリケーション「Deep Nine」のサービス提供をしています。
ヒューマンセンシングの技術を応用し、身体の位置・角度・速度情報を数値定量化することで、野球選手の特徴分析や能力強化・育成、怪我の予防など、幅広い活用が可能になります。
【参考記事】
ACES・電通・GAORA・共同通信デジタルが野球における姿勢推定AIアプリケーション「Deep Nine」をリリース国内プロ野球球団への試験導入と映像データ分析をスタート
【試合解析】AI作戦成功確率の表示(データスタジアム株式会社)
AI作戦成功確率の表示
データスタジアム株式会社は野球の攻撃時の各種作戦について、その成功確率を予測する人工知能(AI)を開発しました。
日本テレビ系プロ野球中継(巨人×広島)で「AI作戦成功確率」として披露され、更に幅広くAI予測と共に野球観戦を楽しむことが出来ます。
ヒット、送りバント、盗塁の3つの作戦について、打者ごとにAIが成功確率を計算し、それらが、画面に反映されます。
また、投球が進むと1球ごとに計算が更新されるため、ボールカウントによって成功確率がどれくらい増減するのかが分かります。
【参考記事】
野球の作戦成功確率を予測するAIを開発日本テレビ系プロ野球中継で「イニング得点確率」に次ぐ今シーズン進化系AI施策第2弾としてサービス開始!
3.6【試合解析】ベストな配球をAIがリアルタイムで提示 「AIキャッチャー」
AIキャッチャーの画像
日本テレビと博報堂DYメディアパートナーズグループ・データスタジアムではバッターを抑えるためのベストな配球をAIがリアルタイムで提示する「AIキャッチャー」を開発し、実際の野球中継で利用しています。
過去16年間のプロ野球の試合のおよそ400万球のデータをベースとしており、、ボールカウント、アウトカウント、イニング、点差、出塁状況などに応じて、バッターを抑えるためのベストな球種とコースをAIがリアルタイムで提示します。
今年のプロ野球中継の楽しみの一つ。
— ハッピー橋本亨🌈堺市ハッピー薬店(心と美容とダイエットカウンセラー) (@happy3939) June 20, 2020
読売だけやと思うけど、AIキャッチャーを導入。16年間でなんと400万球を記憶して、配給を決めて紹介。
今日の解説の江川さん、キャッチャー、AIの選択の違いが面白い。
ただ今、ジャイアン1-0でリード。 pic.twitter.com/WamgmgEldF
過去の蓄積データによる結果と実際の試合でのサインを見比べることが出来るようになっており、観戦の新たな楽しみを提供しています。
【参考記事】
野球中継の価値を高めるデータの力 ──AIがバッテリーの配球を算出する「AIキャッチャー」
試合結果の予想
SPAIAのプロ野球 AI勝敗予想
SPAIAの画像
SPAIAの「プロ野球 AI勝敗予想」ではAIに過去のデータを機械学習させることにより、試合の勝利チームを予想しています。
定期的に機械学習モデルの更新も実施されており、プロ野球 AI勝敗予想的中率向上の精度も期待することができそうです。このサイトでは、ユーザーの的中率や投票結果等も閲覧することができます。
野球を楽しむコンテンツの一環にAIが組み込まれるようになってきている事が分かりますね。
AI BASEBALLの野球勝敗AI予想
AI BASEBALLの画像
AIBASEBALLはプロ野球と高校野球の勝敗予測についてAIでの情報提供をしています。
会員登録費(¥25,000-50,000)が必要なものの、高精度の予測が特徴です。
例えば、2024年2月の予想は100%、2022年は81.6%の勝率を残しています。
自分の予想と、AIによる予想結果を比べる事で、より観戦が楽しめるようになりそうですね。
野球界におけるAI技術の課題と展望
このセクションでは野球界におけるAI技術の課題と展望について解説していきます。
課題として挙げられるのは以下の4点です。
課題 | 説明 |
---|---|
データの質と量の問題 | - 十分なデータが収集できない場合、精度が低下 - データの偏りや不完全性が悪影響を及ぼす |
倫理的な課題 | - AI審判の判定への納得感やプライバシー保護 - 公平性と透明性の確保が必要 |
技術の導入コスト | - 高額な導入コストが中小規模チームにとって負担 - 導入コスト削減のための技術革新が必要 |
人間との協調 | - AIの提案を最終的に判断するのは人間 - AIと人間の役割分担とコミュニケーションの確立 |
続いてAI利用に関する今後の展望について表にまとめています。
展望 | 説明 |
---|---|
高度なデータ解析の進化 | - AIにより詳細なパフォーマンス評価が可能に - リアルタイムでのデータ収集と解析 |
予測技術の向上 | - 試合結果や選手成績の予測精度が向上 - 効果的な対策の提案が可能 |
AI審判の普及と精度向上 | - ボールやストライクの判定精度が向上 - 公正性の向上と信頼性の強化 |
まとめ
この記事では野球業界におけるAI利用について最新事例を含め10選紹介しました。また、それらを踏まえた課題や今後の展望についても解説しました。
AIの及ぼす影響範囲はIT業界にとどまらず、スポーツ業界である野球界にも届いています。AIは様々な使い方がありますが、今回の記事でAIの野球界での利用法についても理解が深まったのではないでしょうか?
AIは野球選手やチームの戦略立案に使用したり、観戦を楽しませるためのツールにもなり得ます。
この記事が皆様にとってAI活用事例の一助となれば幸いです。