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物流業界のAIの導入・活用事例8選!現状の課題と導入メリットと共に解説

この記事のポイント

  • 物流業界の現状と直面する課題を解説
  • AIによる在庫管理、配送ルート最適化、作業自動化の利点
  • 大手運送会社のAI導入事例と具体的な成果
  • 倉庫管理や梱包作業におけるAIロボットの活用例
  • AI導入による業務効率化と顧客満足度向上の実績

監修者プロフィール

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

現代の物流業界は拡大を続ける一方で、人手不足や労働環境の課題なども山積しています。
そうした中で、AI技術の進歩は画期的な改善策を提供しており、多くの企業でその導入事例が見られるようになってきました。

本記事では、物流業界におけるAI導入の具体的な事例を紹介し、各社がどのように技術を活用しているのか、そしてどのようなメリットが期待できるのかを詳しく解説していきます。
サプライチェーンを支えるサービスの効率化やコスト削減、さらには働き方改革への対応など、AIは業界の未来を明るく照らすキーテクノロジーとなりつつあります。

物流業の現場におけるAI導入に関心のある方、また改革の糸口を探している方にとって、この記事がその一助となれば幸いです。

昨今の物流業界

AIを通じて物流業界の課題を解決するためにも、まずは物流業界の現状を見つめていく必要があります。

物流は「経済の血流」と言われるように、人々の生活にとって非常に重要な機能を担っています。
そんな物流業界の市場規模は、一般的に、「緩やかに伸び続けている」と言われています。

実際に、2020年のコロナウイルスの蔓延に伴い、ECサイトを主軸とした物流のニーズは伸び続けています。

また、在宅ワークの増加や余暇時間を活かしたハンドメイド商品の売買など、多様な形で物流の需要が伸びました。
世間的な傾向としてコロナの被害は縮小に向かっていますが、これらの2020年を境に変化した生活習慣は現存しているのではないでしょうか。

しかし一方で、このような需要の増加に伴って、供給側の負担が増えていることも事実です。次は、そのような課題を概観していきます。


物流業界の抱える課題

物流業界といっても一枚岩ではありません。
全体として緩やかなネットワークを築きつつも、個別具体で様々な課題がひしめき合っています。

人手不足

人手不足

人手不足の程度を測る指標に「有効求人倍率」という尺度があります。
この尺度の仕組みは、「求人に応募する人の数」に対して、「求人を募集する側のニーズの総体」(これくらいの数の求人が必要だ、という各事業者の想定の足し算)を割り算することで得ることができます。

式は以下の通りです。
「有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数」

倍率が1を超えていると、求職者よりも求人数の方が多いということになり、求人の枠にあまりがある、要するに人手が足りていないということになります。

人手不足の状況を、求人数と求職者数の割合に還元してしまうため、いささか単純さを間逃れない見取り図ではありますが、それでもわかることがあります。

例えば、全産業の有効求人倍率は1,23なのに対して、物流業界におけるドライバーの倍率は2.46です。
単純計算しても、各産業と比較して、2倍の数だけ人が足りていないということがわかります。

ここではドライバーに視点を限定しましたが、少子高齢化といった一般的な人手不足の「原因」に加え、昨今人気の「ワークライフバランス」とは真逆の方向にいくような、労働環境へのネガティブなイメージが、この人手不足の現状に拍車をかけているようです。

便利さの代償

便利さの代償

オンラインショッピングを楽しむ方なら、「翌日配送」や「配送日指定」、「再配達」といった便利な機能を使ったことがあるかもしれません。
これらの機能を活用することで。購入する商品次第では、朝に注文して夜には届くといったことや、自分の都合に合わせて好きな時に商品を受け取ることができます。

しかし、その便利さとは裏腹に、そういった利便性を提供する側のサービス従事者が負担を被っている事実があります。

利便性にかまけて、大量の商品を注文してしまうことは、そのまま配達員の負担を増加させることを指し、指定日配達を夜にすることは、配達員の長時間労働・深夜労働の常態化に繋がっています。

言わずもがな、度重なる再配達において、配達員は肉体を駆使して虚を運んでいるも同然であり、労働・時間・コストが浪費されていきます。

2024年問題

2024issue

上述した2つの問題もあわせるような形で、物流の「2024年問題」があります。
これによって現在、ドライバーの時間外労働の上限規制(年960時間)が適応されています。

2024年問題とは、この規制によって、ドライバーの労働時間が短くなり、その結果、相対的にモノの運ぶ量が減少減少することや、従来担保されていた輸送サービスの質を、消費者が享受できなくなることなどが懸念されています。

働き方改革の延長線上にあるこの施策を通じて、一人一人の労働者の肉体的な負担は軽減されていくかのように思われますが、業界全体を通して課題が浮かび上がってくるそうです。


物流業界の業務においてAIを導入するメリット

そのような物流業界全体の課題群に対してAIはどのような貢献をすることができるのでしょうか。

ここではいくつかの一般的なメリットを解説致します。

在庫管理の最適化

まずは在庫管理の最適化です。適切な形でAIを導入することで、リアルタイムで在庫データを監視し、需要予測アルゴリズムを用いて適切な在庫レベルを維持することができるようになります。

これにより、過剰在庫や欠品を防ぎ、在庫コストを削減することができるでしょう。

また、シーズンやトレンドに応じた商品補充を最適化し、在庫回転率を向上させることで、顧客満足度も向上します。
結果として、資本の効率的な運用とキャッシュフローの改善が期待できます。

配送ルートの最適化

AIは交通状況、天候、道路工事情報などをリアルタイムで分析し、最適な配送ルートを算出することもできます。

これにより、配送時間の短縮と燃料コストの削減が実現されます。

また、遅延や交通渋滞のリスクを最小限に抑え、配送の信頼性を向上させます。これは、物流コストの削減だけでなく、顧客満足度の向上にも寄与します。

自動化による作業効率向上

倉庫内のピッキングや仕分け作業をロボットとAIのシステムで自動化することで、作業のスピードと正確性が向上します。

これにより、人為的ミスが減少し、作業効率が飛躍的に向上します。

さらに、従業員はより付加価値の高い業務に専念できるため、全体的な生産性が向上します。結果として、運営コストの削減と業務の効率化が達成されます。

予防保守の強化

AIは機械や設備のセンサーデータを分析し、故障の予兆を検知して予防保守を行います。
これにより、突発的な機械の故障や生産ラインの停止を防ぎます。定期メンテナンスの最適化と部品交換の適切なタイミングの決定により、メンテナンスコストを削減し、機械の稼働率を最大化します。

結果として、安定した運用とコスト削減が実現されます。

これらのように、AIを導入することで、従来人間が担っていた負担を機械に任せることや、経験的にしか判断することのできなかった傾向(在庫状況、交通状況、労働者のパフォーマンスの傾向 etc..)に対して、客観的な分析と対策を行うことが可能になるのがAIを導入することの大きなメリットと言えるでしょう。

物流業界は、特に人手不足の対処や効率化が重要になってくる分野であるため、AIを導入することの社会的、経済的なインパクトの総量がとても大きいと言えるのではないでしょうか。


物流業界におけるAI導入の事例集

①株式会社ロジ勤怠システムの取り組み

2024年5月19日、株式会社ロジ勤怠システムは、運送会社の勤怠管理と給与計算の課題を解決するために開発した「勤怠ドライバー」を紹介しました。
2016年に開発されたこのクラウドベースのソリューションは、物流業界の特別な要件に対応し、長時間労働や未払い残業の問題を解決します。

スマートフォン、デジタルタコグラフ、アルコール検知器と連動し、管理者とドライバーの入力負担を軽減し、休憩時間や残業時間の管理も可能です。

このソリューションにより、132の運送会社と1万2000人のドライバーが効率化の恩恵を受け、応答速度と安定性が向上しました。今後はAIによる機能拡張も予定されています。

株式会社ロジ勤怠システム
業界特化型の勤怠管理システム「勤怠ドライバー」の全容

詳細はこちら▼
物流業向け勤怠管理システムの革新


②サントリー株式会社の取り組み

2021年、サントリーは、富士通と共同で、AIによるフォークリフト操作判定システムを物流業界で初めて構築しました。
このシステムはドライブレコーダーの映像を解析し、AIがフォークリフトの爪操作や走行状態を検知して危険操作を抽出します。

不要なシーンは倍速処理し、人が確認すべき部分だけを提供し、安全係数が産出されます。

この技術の導入によって、従業員の教育を自動化することができ、様々な状況下においても、直接的な教育と遜色のない効果を得ることができるようになりました。

サントリー事例
サントリーによるAI導入事例(サントリーHPより)


③ヤマト運輸の取り組み

ヤマト運輸は、新型コロナの影響でコールセンターの出勤人数が制限され、集荷依頼に対応しきれない課題に直面しました。
これを解決するため、ヤマト運輸は音声AI「LINE-WORKS-AiCall」を導入し、24時間対応可能な環境を構築しました。

その結果、顧客満足度は80%以上に達し、待ち時間がなくなりスムーズな対話が可能となり、オペレータは緊急の問い合わせにより集中できるようになりました。

ヤマト運輸
ヤマト運輸の導入事例

詳細はこちら▼
-AI導入で顧客満足度向上!電話対応例-


④佐川急便の取り組み.1

佐川急便は、手書きの配送伝票を自動で読み取るAIシステムを導入し、業務効率化を実現しました。
以前は手作業で行われ、繁忙期には1日100万枚の伝票処理が必要で膨大な作業時間が問題でした。

ディープラーニングを基にした文字認識技術により、99.995%の高精度で手書き数字を認識できるようになり、月間で約8400時間の作業時間を短縮できる見込みです。

この技術は他の業務にも展開され、AI導入の促進が期待されています。

佐川急便
佐川急便の導入事例

詳細はこちら▼
佐川急便、AIで手書き伝票を自動読取


⑤佐川急便の取り組み.2

また、2021年10月には株式会社オプティマインドの提供するラストワンマイルに特化したルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」を導入しています。

このサービスでは、荷物の配達状況、再配達依頼といった集配状況をリアルタイムで計算することができ、それによって常に配送者が最適なルート進行のもと、業務を遂行することができるようになっています。

佐川急便.2
佐川急便によるAI導入事例 (佐川急便HPより)


⑥佐川急便の取り組み.3

佐川急便はそれ以外にも、再配達によるコスト削減の問題にもAIを通じてアプローチしようとしています。
具体的には、個人宅の電力データの稼働を専用のスマートメーターで受信して在宅か不在かを予測し、そのデータを基にAIが効率的な配送ルートを示すというシステムの運用です。

日本データサイエンス研究所や大学機関などと、一部の地域で実証実験を行うことで、成果を上げています。

未だ導入には行ったっておりませんが、このような形でAIとの協働を行う事例も今後増えていくでしょう。

佐川急便.2
佐川急便によるAI導入事例 [物流ニュース Lnews より (https://www.lnews.jp/2021/03/n0326404.html?_fsi=oL8O4Ew8)]


⑦三菱倉庫の取り組み

三菱倉庫は、ECサイト上での経済活動の拡大に伴い、埼玉県三郷市にECに特化した物流センター「SharE Center misato」を開設しています。

その物流センターがオープンされた初日から、「AIロボット」が導入されています。このAIロボットは、物流AIロボティクスの株式会社ギークプラスが提供する自動棚搬送ロボット「EVE P500R」です。

従来は人間がピッキングを行なっていた場に導入されることで、大幅なコスト削減が見込まれています。

三菱倉庫
三菱倉庫によるAI導入事例 (株式会社ギークプラスHPより)


⑧三井物産グローバルロジスティクスの取り組み

三井物産グローバルロジスティクスは、自動封函時の異常を検知するAIアプリケーションの導入により、封函作業の負担軽減と品質向上、効率化を実現しています。

自動封函とは、段ボールの梱包をする時に、箱の上側を自動でテープ貼りする機械です。
従来の体制では、テープ貼りがうまくいかずに、不適切な状態になってしまうことがありました。

また、その不適切さを見た目で判断することが難しく、そのままの状態で発送してしまうこともあったそうです。

しかし、AIを導入することで自動封函機をすぐさま中断させることができるようになることで、不適切な状態での発送を食い止めることができるようになりました。

また、AIが学習を繰り返すことで、箱デザイン等の変更の影響を低減することもできるようです。

三井物産グローバルロジスティクス
三井物産グローバルロジスティクスによるAI導入事例 (参考:PRTIMES)


まとめ

物流業界は、ECサイト市場などを中心にしながら、徐々に拡大し続けています。その勢いは今後も当分は続くと言えるでしょう。
しかしそれを続けていくためには、市場を支えるサプレイチェーンの側の課題を解決していくことが急務です。人材不足、コストカット、労働環境の改善など、たくさんの課題がある一方で、それを解決することを志すようなAIサービスもどんどん登場していきています。

今後も現場のニーズに即したAIサービスサービスは多々生まれてくるでしょう。そ
れらのサービスを現場に落とし込み、具体的な数字を伴って労働環境の改善や市場の成長を成し遂げるには、何が必要でしょうか。

少なくとも、現場にいる一人一人の人間が、AIの導入事例に精通しながらも、自社の課題を明晰に見定め、適切なAI導入を行っていくことが求められるでしょう。

この記事を通して、そんなAIと物流の状況に対する視座を得る一助となれば幸いです。

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監修者

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

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