この記事のポイント
- 機械学習は教師あり、教師なし、半教師あり、強化学習の4種類に大別される
- 線形回帰、決定木、ランダムフォレストなど11種類の主要な手法を図解付きで解説
- 各手法の特徴、適用例、長所短所を詳細に説明
- 手法選択のためのフローチャートと基準(データ種類、量、計算コスト等)を提供
- 機械学習の進化と倫理的使用、今後の展望について考察
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
現代社会において、情報技術と並行して急速に発展を遂げる「機械学習」の手法は、多岐にわたる分野でその有効性を示しています。
しかし、多くの機械学習の手法の中から、特定の課題に適したものを見極めることは、その専門性の高さから一筋縄ではいきません。
この記事では、機械学習の基礎から応用までを幅広く解説するとともに、初心者や中級者に向けたポピュラーな機械学習手法11選を紹介し、それぞれの特徴や活用の事例を具体的に説明しています。
また、手法の選択基準についても議論し、読者が機械学習の世界に一歩踏み出す助けとなるようなガイドラインを提示しています。
機械学習の専門性を理解し、あらゆるビジネスシーンや日常生活での活用を目指す方にとって、有益な情報を提供する内容となっています。
機械学習とは
機械学習とは、一言で表すとデータから学習して、その学習結果をもとに予測や判断を行う技術です。
「データ」とは、「アルゴリズムが学習するために使用される情報の集合」を指します。このデータは、モデルの訓練、検証、そしてテストに利用され、具体的な予測や分類の決定を行うための基礎です。
データの質と量が、モデルの性能に直接的な影響を与えます。
「学習」とは、基本的に「機械やアルゴリズムがデータからパターンや規則性を抽出し、それを用いて未来のデータや状況に対する予測、や判断を行う能力を獲得するプロセス」です。
このプロセスは人間が経験から学ぶ方法に似ていますが、数学的なモデルとアルゴリズムを使用して自動化されています。
犬ロボが壁のボタンを押せるように進化しています。立ち上がる、ボタンを押す、などの動作をそれぞれ機械学習でシュミレートした後、実機で順番にタスクを実行することで実現しています。その内、同時に複数タスクを機械学習できる手法も考案されそうです。既にあるのかな。。 pic.twitter.com/pZrjMq69Dd
— ナムチャン 南原 徹也/Nambara Tetsuya @甲子化学工業/KOUSHI HOTAMET (@namchan_koushi) March 29, 2023
機械学習の手法
機械学習の方法は大きく4つのカテゴリに分類されます。
- 教師あり学習 (Supervised Learning)
- 教師なし学習 (Unsupervised Learning)
- 半教師あり学習 (Semi-supervised Learning)
- 強化学習 (Reinforcement Learning)
以下では、それぞれの機械学習の方法について応用例や特徴を解説していきます。
また、近年特に注目を集めているディープラーニングについても取り上げます。
教師あり学習 (Supervised Learning)
教師あり学習は、入力データ(特徴量)とそれに対応する出力ラベル(目標値)の両方を含むデータセットを使用してモデルを訓練します。
この手法は、事前にラベル付けされたデータを用いて、入力から出力へのマッピング関数を学習します。
【応用例】
- 画像認識
写真に写っている物体を特定する。 - スパム検出
メールがスパムかどうかを判定する。 - 金融詐欺検出
取引が詐欺的か正当かを識別する。
【他の手法との比較】
教師なし学習 (Unsupervised Learning)
教師なし学習は、ラベルのないデータを扱います。
この手法はデータの内在する構造やパターンを発見することを目的としており、データから直接情報を抽出するために使用されます。
【応用例】
- クラスタリング
類似の特徴を持つデータポイントをグループ化する。 - 次元削減
データの複雑さを減らすために使用され、視覚化や効率的なストレージが可能になる。 - 異常検出
データセットの中で異常なパターンを識別する。
【他の手法との比較】
教師なし学習は、予測や分類のための明確なラベルがない場合に適しています。
これに対し、「教師あり学習」では、目標ラベルを使用して明確な予測を生成します。強化学習とは異なり、教師なし学習は報酬やペナルティを伴わないデータ探索に重点を置いています。
半教師あり学習(semi-supervised learning)
半教師あり学習は、教師あり学習と教師なし学習の中間に位置します。
ラベル付きデータを使用してモデルの基本的な学習を行い、ラベルなしデータを利用してこの学習を拡張・精緻化します。
この手法の主な仮定は、ラベルなしデータが追加の情報を提供し、モデルがデータの構造をより完全に理解するのに役立つというものです。
【応用例】
- 画像認識
大量の未ラベル画像データを活用して、ラベル付きデータの量が限られた状況での物体認識モデルの訓練に使用されます。 - テキスト分類
インターネット上の大量の未ラベルテキストデータを活用して、特定のカテゴリに分類するためのモデルの性能を向上させます。 - バイオインフォマティクス
遺伝子やタンパク質の機能を注釈する際にラベル付きデータが限られているため、未ラベルの生物学的データを利用して有用な予測モデルを構築します。
【他の手法との比較】
教師あり学習と比較して、半教師あり学習はより少ないラベル付きデータで同等またはそれ以上の性能を達成することができます。
教師なし学習と比較して、半教師あり学習は具体的な予測タスクにおいてより直接的な結果を提供し、データの構造を利用してモデルの学習をガイドします。
半教師あり学習は、ラベル付きデータが不足しているが、大量のラベルなしデータが存在する多くの現実世界の問題に対して有効な解決策を提供します。
強化学習 (Reinforcement Learning)
強化学習は、エージェントが環境と相互作用しながら学習を進める手法です。
エージェントは行動を選択し、その行動に対する報酬(またはペナルティ)を受け取ります。目標は、報酬を最大化する戦略を学ぶことです。
【応用例】
- 自動運転車
リアルタイムでの決定を行う。 - ゲームプレイ
チェスや囲碁などの戦略ゲームで最適な手を学習する。 - ロボット工学
物理的環境でのタスクを遂行するための戦略を学ぶ。
【他の手法との比較】
強化学習は、連続的な判断とそれに対する報酬が必要な複雑な問題に適しています。
教師あり学習や教師なし学習とは異なり、強化学習は試行錯誤を通じて最適な行動を見つけ出します。
ディープラーニング(Deep learning)
ディープラーニングは、機械学習の一種であり、特に深層ニューラルネットワークを用いた学習手法を指します。ディープラーニングは、教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習、強化学習のいずれにも適用可能です。
ディープラーニングでは、多層のニューラルネットワークを用いて、複雑なデータ構造からパターンを抽出し、学習します。
これには、畳み込みニューラルネットワーク (CNN)、リカレントニューラルネットワーク (RNN)、オートエンコーダーなどが含まれます。
【応用例】
- 画像認識
顔認識、物体検出、医療画像分析などを畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて行っている。 - 自然言語処理(NLP)
機械翻訳、感情分析、テキスト生成など。 - 音声認識
スマートフォンのアシスタントや自動音声応答システムなどをリカレントニューラルネットワーク(RNN)を用いて行っている。
【他の手法との比較】
特に大量のデータが利用可能な場合に、他の機械学習手法に比べて高い精度を達成します。これは、ディープラーニングがデータから複雑なパターンを学習する能力に優れているためです。
しかし、ディープラーニングモデルは「ブラックボックス」と見なされることが多く、その決定プロセスの解釈が困難です。
【関連記事】
➡️機械学習とディープラーニングの違いをわかりやすく解説!
機械学習の手法11選と、その活用例
機械学習にはいくつものアプローチが存在し、それらは特定の問題やデータにより適したものとなっています。ここでは、特に初心者や中級者が理解しやすい11の主要な機械学習手法を紹介します。
紹介する上で、それぞれの機械学習手法を用いるとどのような結果が得られるのかを図で示しているので、合わせて参考にしてくださいね。
線形回帰
連続した数値を予測する場合に使用され、販売予測や株価分析に応用されます。
図のように、直線的な関係のみをモデルにとらえているため、直感的な理解をし易い反面、外れ値に弱いなどの弱点があります。
ロジスティック回帰
2つのクラス間での分類を行う際に用いられ、メールがスパムかどうかを判別するなどに利用されます。
図では、class0とclass1の2値に分類しています。緑の線は、決定境界と言われ、クラスが切り替わる確率が0.5の場所です。
決定木
判断基準の階層を木構造にしてデータを分類・回帰する方法で、顧客の分類や疾患の診断などに使われます。
図では、Irisデータセットを用いて花の種類を分類しています。
ランダムフォレスト
複数の決定木を組み合わせ、より強力で精度の高いモデルを生成する手法です。
しかし、精度が上がる代わりに計算コストが高くなる可能性があります。
サポートベクターマシン
サポートベクターマシンは、特に、分類問題において優れたパフォーマンスを示す教師あり学習モデルです。二つのクラスを最もよく分ける境界線(超平面)を見つけることを目的とします。
図では、生成したランダムな2クラスのデータセットに対して、サポートベクターマシンがどのように境界線を引いているかが表示されています。
k-最近傍法 (k-NN)
k-最近傍法は、分類問題や回帰問題に使用される教師あり学習アルゴリズムです。
与えられたデータ点に最も近いk個のトレーニングデータ点を基に、データ点のクラスを決定します。
ナイーブベイズ
ナイーブベイズは、特徴間の独立性を仮定することで、ベイズの定理を用いて各クラスの確率を計算する教師あり学習アルゴリズムです。
特にテキスト分類問題において高い効率と性能を発揮しますが、ここでは分類問題に適用しています。
k-平均法
k-平均法は、教師なし学習アルゴリズムで、データをk個のクラスタに分類することを目的としています。
この方法では、クラスタの中心(セントロイド)を選び、各データポイントを最も近いセントロイドに割り当てることによってデータをグループ化します。
主成分分析 (PCA)
主成分分析 (PCA)は、多次元データセットの次元削減を行うための技法です。データの分散が最大となる方向を見つけ、元のデータセットをより少ない数の次元で表現することを目的としています。
これにより、データの可視化や他の機械学習アルゴリズムへの前処理として役立ちます。
勾配ブースティング
勾配ブースティングは、弱い学習器(通常は決定木)を逐次的に訓練し、それらの予測を組み合わせて強い予測モデルを構築するアンサンブル学習技法です。
各ステップでの学習は、前のステップの残差(誤差)に焦点を当てて行われます。
ニューラルネットワーク
ニューラルネットワークは、脳のニューロンの動作を模倣した計算モデルです。層状のネットワーク構造を持ちます。
入力層、隠れ層(一つ以上)、出力層から構成され、各層は複数のノード(ニューロン)で構成されています。学習過程では、データからパターンを学び取るためにネットワーク内の重みが調整されます。
これらの手法はそれぞれに有効な利用シナリオを持っており、適切な理解と実践を積むことで、多様な問題解決に応用可能です。
なかでも、ランダムフォレストや勾配ブースティングは、優れたパフォーマンスを発揮することで知られており、Kaggleなどのデータサイエンスコンペティションでも頻繁に利用されます。
一方、ニューラルネットワークは、音声認識や画像処理などの複雑なタスクに特に効果を発揮し、近年のディープラーニングの進展により、特に注目を集める手法になっています。
機械学習手法の選び方【フローチャート有り】
機械学習の手法選択は、学習を成功させるための決定的なステップです。
適切な手法を選ぶためには、いくつかの基準を考える必要があります。
- データの種類
データの種類(数値、カテゴリカル、画像、テキストなど)を考慮し、それに合うアルゴリズムを選択します。
- データ量
十分な量のデータとラベルがある場合は教師あり学習が有利であり、そうでなければ教師なし学習や半教師あり学習が適している場合があります。
- *計算コストと問題の種類
特定のアルゴリズムは計算コストが高く、時間とリソースの利用可能性も要因となります。
さらに、対象とする問題が予測か、分類か、それともクラスタリングかによって、適用すべき手法が変わります。
- インフラとメンテナンス性の考慮
最終的には実際の業務適用を見越して、どのようなインフラストラクチャーが必要で、導入後のメンテナンスや継続的なトレーニングをどの程度行うことが可能かを見極めることが重要です。
適切な基準に基づき手法を選ぶことは、プロジェクトの効率化、コスト削減、そして最終的な成果の達成に直結します。
上記は、AI総研編集部で機械学習手法の選択フローチャートです。機械学習の手法を選ぶ際の一助になれば幸いです。
まとめ
本記事では、機械学習の基本的な分類から始まり、初心者や中級者に向けた主要な手法を概観し、各手法の詳細な特徴と応用例を紹介しました。
教師あり学習、教師なし学習、強化学習、そしてディープラーニングを網羅することで、読者は各手法の利点や適用可能なシナリオについて理解を深めることができました。
機械学習の手法は日々進化しており、未来にはさらに新しいアルゴリズムやアプリケーションが登場することが予想されます。ビッグデータの活用が進むにつれて、企業はこれらの手法を用いてビジネスのインサイトを深め、競争力を強化し続けることができるでしょう。
技術開発とともに、倫理的な使用とプライバシーの保護についても考慮する必要があります。機械学習は現在進行形のフィールドであり、学び続けることがそのポテンシャルを最大限に活かす鍵となるでしょう。