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製薬業界におけるDXとは?メリットや現状の課題、実際の事例を解説!

この記事のポイント

  • 製薬業界の現状と課題:高コスト、長期開発サイクル、ジェネリック医薬品の影響を詳述
  • DXによる新薬開発プロセスの革新:AI活用による効率化と成功率向上
  • デジタル技術を用いた臨床試験の変革:遠隔医療やデータ解析の進化
  • 営業・マーケティングにおけるDXの活用:CRMシステムやデジタルマーケティングツールの導入
  • 具体的な企業事例:アステラス製薬やエムスリーのDX推進事例を紹介

監修者プロフィール

坂本 将磨

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

製薬業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、新薬開発から製造、マーケティングに至るまでのプロセス全体を革新し、業界の未来を形作っています。
多くの規制や長い開発サイクル、高コストといった課題が存在する中、AIやビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの先端技術が導入されることで、これらの課題が次第に解決されつつあります。

本記事では、製薬業界が直面する高コスト、長期の開発サイクル、ジェネリック医薬品の影響などの課題を詳細に分析し、DXがこれらの問題にどのように対応しているかを探ります。

製薬業界のDXがもたらす可能性と、医療・創薬の質を革新的に向上させる取り組みについて深く掘り下げていきます。

製薬業界におけるの現状と課題

この章では、製薬業界の現状と抱える課題について説明します。

製薬業界はハイリスクハイリターン

製薬業界は典型的なハイリスクハイリターンの産業と言われています。
国立研究開発法人科学技術振興機構によると、新薬の開発には、約千億円にも及ぶ巨額の投資と10年以上の時間が必要とされています。

このプロセスは非常にリスクが高く、新薬候補が臨床試験の段階で失敗するケースも少なくありません。

国立研究開発法人科学技術振興機構による新薬開発の過程
国立研究開発法人科学技術振興機構による新薬開発の過程


さらに、厚生労働省の医薬品産業ビジョン 2021によると新薬開発の成功確率は年々低下(20年前:1/1.3万→現在:1/2.3万)しており、難易度が上昇していることが示されています。

一方で、大きく成功すればその新薬は特許によって保護され、巨額の利益を生み出す可能性があります。
この高リターンの可能性が、製薬企業がリスクを伴う開発に取り組み続ける主な理由となっています。

新薬開発におけるジェネリック医薬品の影響

製薬業界の現状と課題を語る上で、ジェネリック医薬品の影響は無視できません。
ジェネリック医薬品は、新薬(先発医薬品)と同じ有効成分を使用し、品質、効果、安全性が同等と認められた医薬品です。

新薬の特許期間が満了すると、その権利は国民の共有財産となります。これにより、他の製薬会社が同じ有効成分を使用した医薬品を製造・販売することが可能になります。
このようにして製造された薬がジェネリック医薬品です。

新薬に比べ開発費用や開発期間が少ないため、ジェネリック医薬品は新薬よりも低価格で提供されることが一般的です。

ジェネリック医薬品とは
ジェネリック医薬品とは

ジェネリック医薬品がもたらす課題

下図は、厚生労働省の医薬品産業ビジョン 2021によるジェネリック医薬品の使用割合を示しています。

使用される薬のうち、6〜8割がジェネリック医薬品であることがわかります。

厚生労働省の医薬品産業ビジョン 2021によるジェネリック医薬品使用割合
厚生労働省の医薬品産業ビジョン 2021によるジェネリック医薬品使用割合


先述の通り、ジェネリック医薬品は低価格で提供されるため、元々の新薬が長期にわたって利益を生み出すことが困難になるという状況を引き起こしています。

そのため、製薬業界では画期的な新薬を継続的に開発する必要性が高まっており、創薬のハードルがさらに上がるという課題に直面しています。

営業およびマーケティングの課題

ここまでは、製薬業界の新薬開発といった技術面に関する現状と課題を説明しました。しかし、製薬業界の抱える課題は技術面だけではありません。

ここでは、製薬業界の営業およびマーケティングにおける現状と課題を説明します。

製薬業界の抱える課題の一つに、営業コストにおけるMR(医薬情報担当者)関連費用の高さが挙げられます。

東洋経済オンラインの記事によると、「製薬企業がマーケティングにかける費用は年間総額2兆円弱」と推定され、その約9割がMR関連費用とされています。


製薬業界におけるDX推進とは

これらの現状と課題を打破するための施策として、現在DXが大きな注目を集めています。
この章では、製薬業界におけるDX推進について注目された経緯およびメリットを合わせて説明します。

なぜ製薬×DXなのか

製薬業界においてDXが注目された理由の一つに、日本製薬工業協会が2021年5月に公表した政策提言があります。

この提言の中で、「DXによる医療と創薬研究開発の高度化」が明記されています。これは、DXを通じて医療ビッグデータの収集および活用を進めることで、製薬業界が抱える課題の解決が見込めるというものです。

日本製薬工業協会による政策提言
日本製薬工業協会による政策提言


製薬×DXのメリット

製薬業界においてDXを推進することには多岐に渡るメリットが挙げられます。

ここでは、以下の2つの観点からそのメリットを紹介します。

1. デジタル技術を用いた新たな創薬

デジタル技術を活用した創薬プロセスは、以下の4つの主要ステップで構成されています。

各ステップでDXの活用により、効率化と精度向上が図られています。

1.臨床開発における戦略の策定

AIによる情報収集の効率化
熟練者の経験に頼っていた情報収集が、AIにより迅速かつ正確に行えるようになりました。

文書作成の自動化
治験実施計画書などの関連文書をAIが自動生成することで、作成時間が大幅に短縮されています。

2.実際の臨床試験

AI予測モデルの活用
臨床試験の結果を事前に予測し、リスクを最小化する試みが進んでいます。

eConsentシステムの導入
遠隔での同意取得が可能となり、参加者の負担軽減と地理的制約の解消につながっています。

オンライン診療の活用
遠隔地からの臨床試験参加を可能にし、試験の迅速化に貢献しています。

3.臨床試験によって得られたデータの解析

データ解析の自動化

データ処理から結果のレポーティングまで、一連のプロセスの自動化が進んでいます。

機械学習の活用
セミオートメーション化により、解析の精度向上と期間短縮が実現しています。

4.新薬製造販売承認の申請

AI支援による文書作成
申請資料の作成が効率化され、作成時間が大幅に短縮されています。

自動翻訳技術の活用
国際的な申請プロセスにおいて、迅速かつ正確な文書作成が可能になりました。

DXを活用した営業およびマーケティング

営業活動は製薬業界において成果を最大化するための重要な分野です。従来の対面営業に頼る手法は限界があり、デジタル技術を取り入れることによる革新が求められています。

DXは営業の各側面に大きな影響を与え、効率化、ターゲット精度の向上、顧客満足度の改善に寄与します。

CRMシステムの高度化

先進的なCRM(顧客関係管理)システムの導入により、営業担当者は顧客とのやり取りを詳細に記録し、過去の取引履歴や傾向を瞬時に分析することが可能になりました。

これにより、個々の顧客ニーズに合わせたアプローチが可能となり、営業活動の効率と効果が大幅に向上しています。

デジタルマーケティングツールの活用

デジタルマーケティングツールを利用することにより、オンラインでの顧客エンゲージメントを高めることができます。

ソーシャルメディアやマーケティングオートメーションのプラットフォームを通じて、潜在顧客に向けたコンテンツを提供し、製品認知度の向上と購入意欲の喚起を図ることができます。

ビッグデータ分析とAIによる需要予測

ビッグデータ分析やAIによる需要予測を営業戦略に組み込むことで、市場の動向や顧客のニーズを先読みし、ターゲティングをより精密化することができます。
これにより、効果的な製品開発やマーケティング戦略の立案が可能となります。

リモートディテーリングの普及

COVID-19パンデミックを契機に、リモートディテーリング(遠隔医療情報提供)が急速に普及しました。
オンラインでの医療従事者とのコミュニケーションが一般化し、時間や場所の制約を受けずに効率的な情報提供が可能になりました。

このようにDXを活かした営業およびマーケティングを行うことで、顧客満足度の向上、さらにはMR(医薬情報担当者)に関する人件費削減が期待されます。
同時に、より効果的かつ効率的な情報提供が可能となり、医療従事者と患者双方にとってメリットのある環境が整備されつつあります。


製薬業界におけるDX推進事例

最後に実際の製薬業界におけるDX推進事例を紹介します。

アステラス製薬株式会社 【研究から営業までバリューチェーン全体のDX】

アステラス製薬株式会社によるDX
アステラス製薬株式会社によるDX

アステラス製薬株式会社では、以下の4つを指針としてバリューチェーン全体でのDXに取り組んでいます。

  • Sense(あらゆる事象をデータとして収集する)、
  • Analyze(データ分析に基づいて予測し、早期に大胆な意思決定を行う)、
  • Automate(高品質かつ高速なオペレーションを実現する)、
  • Engage(時間と場所を超えて人同士の深いつながりを促す)


既存の臨床試験と新たなテクノロジーを組み合わせることで、データの正当性を検証し、効果的な臨床試験を目指しています。
例えば、新薬開発のフェーズでは遠隔医療やウェアラブルデバイスを利用し、患者や治験施設の負担を軽減しています。

特にがん領域での試験が進行中で、収集されたデータに基づき、医師は潜在的な医学問題を特定し、製品の副作用を評価することができます。

エムスリー株式会社【薬剤プロモーション・マーケティング支援サービス】

エムスリー株式会社による薬剤プロモーション・マーケティング支援MR君エムスリー株式会社による薬剤プロモーション・マーケティング支援MR君

「MR君」は、エムスリー株式会社による薬剤プロモーション・マーケティング支援サービスです。

医薬情報提供者(MR)が病院に訪問して提供していた医薬品情報を、エムスリー株式会社の会員である医師にオンラインで届けます。
このサービスにより、製薬企業は情報提供コストを大幅に削減し、医師はいつでも必要な情報を閲覧できるようになります。

MR君の利用企業は約70社、年間売上高は約300億円と推定されており、業界で広く支持されています。


まとめ

本記事では、製薬業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状と可能性について詳しく解説しました。
高コスト、長期開発サイクル、ジェネリック医薬品の影響など、業界が直面する多様な課題に対し、DXが革新的な解決策を提供する可能性を探りました。

新薬開発プロセスにおけるAI活用、臨床試験でのデジタル技術の応用、そして営業・マーケティングにおけるCRMシステムやデジタルツールの導入など、バリューチェーン全体にわたるDXの推進が、効率性の向上と成功率の改善に寄与します。

アステラス製薬やエムスリーの事例が示すように、DXは既に業界に具体的な変革をもたらしています。
今後、製薬企業がDXを戦略的に推進し、そのポテンシャルを最大限に活用することで、医療の質向上と患者への価値提供が一層加速すると期待されます。

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Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。

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