この記事のポイント
- Azure仮想ネットワークピアリングの基本概念と、高帯域幅・低遅延・セキュリティ強化などの主要メリットを解説
- 同一リージョン内ピアリングとグローバルVNetピアリングの特徴と適用シナリオを比較
- Azure Portalを使用したピアリングの具体的な設定手順をスクリーンショット付きで説明
- サービスチェイニング、ゲートウェイ接続、ハブアンドスポークモデルなど、高度なネットワーク構成の実装方法を紹介
- ピアリングの料金体系とコスト最適化戦略、利用時の注意点と制約を詳細に解説
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
クラウド環境における通信の効率化、セキュリティの強化は非常に重要です。
Microsoft Azureでこれを実現する一つの方法が、Azure仮想ネットワークピアリングです。
この記事では、Azure仮想ネットワークピアリングについての概要から具体的な設置手順、利用時の注意点まで、詳細に解説していきます。
また、VPNやExpressRouteを用いたオンプレミスネットワークとの接続方法や、サービスチェイニングなどの高度な機能についても紹介します。 Azure仮想ネットワークピアリングを通じて、クラウドリソース間の通信を高速かつ安全に行い、マイクロソフトのクラウドプラットフォームの柔軟性と拡張性を最大限に引き出す方法をご紹介します。
目次
仮想ネットワークピアリングとは
Azure仮想ネットワークピアリングは、異なる仮想ネットワーク(VNet)間での通信を可能にする機能です。
Microsoft Azureのクラウド環境内で2つのAzure仮想ネットワークを接続することで、それぞれのネットワークが単一のネットワークのように機能します。
ピアリングを利用することで、組織は複雑なネットワーク構成を簡素化し、セキュリティを維持しながら効率的な通信を実現できます。
これは特に、大規模な企業システムや複数のプロジェクトを管理する環境で重要です。
ピアリングされたVNet間のトラフィックは、Microsoftのバックボーンインフラストラクチャを介して直接ルーティングされ、パブリックインターネットを経由しないため、高速で安全な通信が保証されます。
仮想ネットワークピアリングのメリット
Azure仮想ネットワークピアリングには、以下のような多くの利点があります:
帯域幅と遅延
ピアリングされたVNet間の通信は、Azureのバックボーンネットワークを直接利用します。
これにより、高帯域幅と低遅延が実現され、パフォーマンスが大幅に向上します。
特に大量のデータ転送や時間に敏感なアプリケーションにとって、この特性は非常に重要です。
セキュリティの強化
ピアリングされた仮想ネットワーク間のトラフィックは、プライベートなAzureバックボーンネットワーク上で通信されるため、セキュリティとプライバシーが保たれます。
ネットワーク間でリソースを分離しつつ、必要な通信のみを許可することで、セキュリティのリスクを抑制できます。
柔軟性とスケーラビリティの向上
異なるVNet間でリソースを共有できるため、ネットワーク設計の柔軟性が高まります。
これにより、組織の成長や変化に応じて、容易にネットワーク構成を調整できます。また、リソース間のアクセスが容易になることで、運用効率も向上します。
Azure仮想ネットワークピアリングの種類
Azure仮想ネットワークピアリングには、主に2つの種類があります。
同一リージョン内ピアリング
同じAzureリージョン内のVNet間で行われるピアリングです。
このタイプのピアリングは、最も一般的で、設定も比較的簡単です。同一リージョン内でのピアリングは、低遅延と高帯域幅を提供し、同じデータセンター内のリソース間で効率的な通信を実現します。
グローバルVNetピアリング
異なるAzureリージョン間のVNetをピアリングする方法です。
グローバルVNetピアリングにより、地理的に分散したリソース間でもシームレスな接続が可能になります。
これは、災害復旧シナリオやグローバルに展開されたアプリケーションにとって特に有用です。
Azure仮想ネットワークピアリングの設定方法
Azure仮想ネットワークピアリングの設定は、Azure Portalを通じて比較的簡単に行うことができます。
以下に、基本的な設定手順を示します。
-
Azure Portalで「仮想ネットワーク」と検索
Azure Portalでの操作
-
仮想ネットワークで、ピアリングを作成するネットワークを選択し、「設定」で「ピアリング」を選択
-
ピアリング設定画面で、以下の情報を入力します。
- 現在のネットワークのピアリング名
- リモートネットワークのピアリング名
- ピアリング先のVNet(同じサブスクリプション内か、別のサブスクリプション内かを選択)
- 仮想ネットワークの選択(ピアリング先のVNetを指定)
- 設定を確認し、「追加」をクリックしてピアリングを作成。
本来、「ピアリングは双方向の接続」であるため、両方のVNetで設定を行う必要があります。
しかし、Azure Portalでは一方のVNetでピアリングを設定すると、自動的に他方のVNetにも設定が反映されるため、手動で両方を設定する必要はありません。
Azure仮想ネットワークピアリングの機能と使用例
仮想ネットワークピアリングは、そのネットワークの接続方法によって、さまざまな機能を実現することができます。いくつかの機能を紹介します。
サービス チェイニング
サービスチェイニングは、ネットワークトラフィックを一連の仮想化されたネットワークサービス(ファイアウォール、負荷分散装置、侵入検知システムなど)に通過させる技術です。
Azure仮想ネットワークピアリングを使用することで、効率的なサービスチェイニングが可能になります。
例えば、すべてのトラフィックを中央のファイアウォールVNetを経由させてから、他のVNetに転送するといった構成が可能です。
これにより、セキュリティポリシーの一元管理と、きめ細かなトラフィック制御を実現できます。
ゲートウェイとオンプレミスの接続
仮想ネットワークピアリングが可能にするもう一つの重要な機能は、ゲートウェイを介したオンプレミスネットワークとの接続です。
「クラウド内の仮想ネットワーク」と、「企業の内部ネットワーク間」で安全な通信チャネルを構築できます。
これにより、オンプレミスのデータセンターとAzureの間の統合を強化し、ハイブリッドクラウドの実現が可能となります。
2つの接続方法:VPNとExpressRoute
ゲートウェイとオンプレミスのネットワークを接続する際にはVPN(バーチャルプライベートネットワーク)やExpressRouteといった技術が用いられます。
それぞれの技術には特徴があり、使用するべき状況も異なります:
- VPN
インターネット経由で接続を確立するオプションで、比較的少ないコストでハイブリッドネットワークが構築できますが、安定性や帯域幅に制限がある場合があります。
- ExpressRoute
プライベートな接続を確立するサービスで、高い信頼性、速度、ローレイテンシーを提供しますが、VPN接続と比べて超すチオが高くなる傾向があります。
適切な接続方法を選択する際には、トラフィックの量、必要なセキュリティレベル、費用対効果などを検討することが重要です。
また、オンプレミス環境とクラウド環境の間の安定した連携には、アプリケーションの要件だけでなく、ネットワークパフォーマンスやレイテンシーに対する考慮も必要です。
ハブアンドスポークネットワーク
ハブアンドスポークモデルは、中央の「ハブ」VNetと、それに接続される複数の「スポーク」VNetで構成されるネットワークアーキテクチャです。
このモデルは、大規模な組織や複数のプロジェクトを管理する環境で特に有効です。
ハブVNetには共有リソース(ファイアウォール、DNSサーバーなど)を配置し、スポークVNetには個別のワークロードを配置します。
Azure仮想ネットワークピアリングを使用してハブとスポークを接続することで、効率的なリソース共有と集中管理が可能になります。
Azure仮想ネットワークピアリングの料金体系
Azure仮想ネットワークピアリングの価格モデルは、データ転送量に基づく従量課金制となっています。
料金はピアリングの種類(同一リージョン内またはグローバル)とデータの方向(受信または送信)によって異なります。
同じリージョン内のピアリングの場合
同じAzureリージョン内でのVNetピアリングの場合、料金は以下のようになります。
トラフィックタイプ | 料金 |
---|---|
受信データ転送 | $0.01/GB |
送信データ転送 | $0.01/GB |
グローバルピアリングの場合
異なるリージョン間でのVNetピアリング(グローバルVNetピアリング)の場合、料金はゾーンによって異なります。
トラフィックタイプ | ゾーン1 | ゾーン2 | ゾーン3 | US Gov |
---|---|---|---|---|
受信データ転送 | $0.035/GB | $0.09/GB | $0.16/GB | $0.044/GB |
送信データ転送 | $0.035/GB | $0.09/GB | $0.16/GB | $0.044/GB |
Azure仮想ネットワークピアリング利用時の注意点
Azure仮想ネットワークピアリングを効果的に利用するには、いくつかの制約と考慮点を理解しておく必要があります。
これらを事前に把握することで、ネットワーク設計の最適化と潜在的な問題の回避が可能になります。
アドレス空間の重複
ピアリングするVNet間でIPアドレス空間が重複していてはいけません。これは、ルーティングの競合を防ぐために重要です。
ネットワーク設計の初期段階で、各VNetに一意のアドレス範囲を割り当てる必要があります。
トランジティブピアリングの制限
VNetピアリングはトランジティブではありません。つまり、VNet AがVNet Bとピアリングされ、VNet BがVNet Cとピアリングされていても、VNet AとVNet Cは自動的にはピアリングされません。
必要に応じて明示的にピアリングを設定する必要があります。
サブスクリプションとリージョンの制限
異なるサブスクリプションやリージョンにあるVNet間でもピアリングは可能ですが、追加の設定や考慮が必要な場合があります。
例えば、クロスサブスクリプションピアリングでは、両方のサブスクリプションに適切な権限が必要です。
ネットワークセキュリティグループ(NSG)の影響
ピアリングされたVNet間の通信にもNSGルールが適用されます。
これにより細かいアクセス制御が可能になりますが、意図しない通信のブロックを避けるために、NSGルールを慎重に設定する必要があります。
スケーリングの制限
1つのVNetがピアリングできるVNetの数には上限があります(現在は500)。
大規模なネットワーク設計では、この制限を考慮してアーキテクチャを計画する必要があります。
これらの制約を理解し、適切に対応することで、Azure仮想ネットワークピアリングを最大限に活用し、効率的で安全なネットワーク環境を構築することができます。
まとめ
本記事では、Azure仮想ネットワークピアリングについて詳細に解説しました。
異なる仮想ネットワーク間でシームレスな通信を実現するこの技術は、高帯域幅、低遅延、セキュリティ強化など、多くの利点をもたらします。
同一リージョン内ピアリングとグローバルVNetピアリングの違いや、Azure Portalを使用した具体的な設定手順も紹介しました。
また、サービスチェイニングやゲートウェイトランジットなどの高度な機能、そしてコスト最適化のためのベストプラクティスについても触れました。
Azure仮想ネットワークピアリングを適切に活用することで、企業は効率的で安全なクラウドネットワーク環境を構築し、ビジネスの成長を加速させることができるでしょう。
ぜひ、本記事の情報を参考に、自社のニーズに合わせたAzure仮想ネットワークピアリングの実装を検討してください。