この記事のポイント
- Azure Digital Twinsは、物理的な環境をデジタル空間で再現し、リアルタイムな監視と分析を実現するプラットフォームです
- IoTデバイスとの連携により、現実世界の変化をリアルタイムでデジタルモデルに反映
- Azure IoT HubやPower BIなど、他のAzureサービスとシームレスに連携が可能
- スマートビルディングや産業機器の管理、都市インフラの最適化など、幅広い活用が可能
- セキュリティ機能が充実しており、重要なデータを安全に管理
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
物理的な環境のデジタル化とリアルタイム分析の重要性が高まる中、Microsoft Azureが提供するAzure Digital Twinsが注目を集めています。
本記事では、Azure Digital Twinsの基本概念から実践的な活用方法まで解説します。デジタルツインの作成方法、IoTデバイスとの連携、他のAzureサービスとの統合など、具体的な実装方法を紹介します。
特に、スマートビルディングや産業機器の管理、都市インフラの最適化など、実際のユースケースに焦点を当てて説明します。デジタルツインを活用したシステム構築に興味をお持ちの方に、有用な情報を提供できれば幸いです。
目次
Azure Digital Twinsとは
Azure Digital Twinsは、マイクロソフトが提供するデジタルツインのプラットフォームです。
デジタルツインとは、現実世界の物やシステムをデジタル空間に再現し、リアルタイムで監視や分析ができる技術です。例えば、ビルや工場、都市全体をデジタル上に作り、その動きを再現することで、より効率的な運用やメンテナンスを行うことができます。
マイクロソフトが提供するデジタルツインであるAzure Digital Twinsを使うと、様々な規模のデジタルツインを作り、リアルタイムでモニタリングやシミュレーションができます。さらに、Azureの他のサービスと簡単に連携できるため、スマートビルや製造業、都市の管理など、さまざまなシナリオでの活用が可能です。
デジタルツインとは
まず、Azure Digital Twinsの説明に入る前にそもそもデジタルツインとは何かについてご説明します。
デジタルツインの概要
デジタルツインとは、現実世界の物体やシステムをデジタル上に再現し、リアルタイムで監視・分析する技術です。この技術を用いることで、物やプロセスの動きや変化を正確に把握することができるので、予測や改善が可能になります。
現実世界と仮想空間で同じものを双子のように再現するので「ディジタルツイン」という名前が付けられています。
デジタルツインの特徴
デジタルツインの特徴は、次のような点にあります。
-
現実の再現
物理的な物(機械、建物、都市など)をデジタル空間にコピーし、リアルタイムで状態を反映します。
-
リアルタイムモニタリング
IoTセンサーなどを活用し、現実の変化を即時にデジタル上に反映します。
-
シミュレーションと予測
現実の状態をもとに、未来の変化やリスクを予測し、最適化や改善に活用することができます。
-
効率的な管理
運用効率の向上、メンテナンスの最適化、問題の早期発見に役立ちます。
Azure IoTとの連携やAzureシステムの活用
Azure Digital Twinsは、Azureのシステムと統合されているため、他のデジタルツインにはない様々なメリットがあります。
そこでここでは、Azure IoTやAzureシステムとの連携についてご紹介します。
Azureシステムとの連携イメージ(参考:マイクロソフト)
Azure IoTとの連携
Azure IoT Hubとは、IoTデバイスとクラウドをつなぐ通信ハブとなるサービスです。Azure Digital Twinsは、Azure IoT Hubを通じて多くのデバイスからのデータを、物理空間のデジタルツインに即座に反映します。
Azure Digital TwinsとAzure IoT Hubとの連携には、以下のようなメリットがあります。
-
リアルタイムデータ収集
IoTセンサーやデバイスが収集したデータ(温度、湿度、振動など)をAzure Digital Twinsに直接転送し、デジタルモデルが現実と一致した最新の状態を維持できます。
-
異常検知とアラート
例えば、温度の異常上昇や振動の変化を検出すると、Azure Digital Twinsが即座にアラートを発信し、関係者に通知を行います。
-
予防保全
デバイスのデータに基づき、部品の摩耗や劣化傾向をリアルタイムで追跡し、最適なタイミングでメンテナンスを実行することが可能です。
Azureの他のシステムとの連携
Azure Digital Twinsは、Microsoft Azureの他のサービスと統合されているため、以下のようにデータの収集、分析、予測までスムーズに行うことができます。
Azure Machine Learningとデータ分析
Azure Machine Learningを活用することで、IoTデータを分析し、予測モデルを構築して未来の変化やリスクを予測できます。これにより、設備のパフォーマンス最適化や問題の早期解決が可能となります。
Azure Machine Learningイメージ
Azure Machine Learningについてはこちらもご覧ください。
➡️Azure Machine Learning(ML)とは?使い方や料金、Notebookを解説
Power BIとの統合による可視化
Power BIは、データの可視化と分析を行うためのツールです。データを視覚的なグラフやダッシュボードに変換し、リアルタイムでの状況把握やデータ分析をサポートします。
Power BIイメージ
Power BIと連携することで、以下のように、Azure Digital Twinsから得たデータを視覚化し、状況の把握やトレンド分析がしやすくなります。
-
リアルタイムのダッシュボード
IoTデータのリアルタイムダッシュボードを構築できるので、施設や機械の状態をひと目で確認したり、異常発生時には迅速な対応をしたりすることが可能です。
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過去データの分析とレポート作成
蓄積されたデータを利用し、過去の運用結果やトレンドを可視化できます。メンテナンス頻度やエネルギー消費の推移を把握すると、将来的な改善に役立ちます。
Azure Stream Analyticsによるリアルタイム分析
Azure Stream Analyticsは、リアルタイムでデータの分析と処理を行うためのクラウドサービスです。
Azure Stream Analyticsイメージ
Azure Digital Twinsは、Azure Stream Analyticsを組み合わせることで、大量のデータをリアルタイムで分析し、イベント処理を効率化することができます。
これにより、大規模なシステムや複数のIoTデバイスからのデータもスムーズに処理可能です。
Azure Digital Twinsの仕組み
ではAzure Digital Twinsはどのような仕組みになっているのでしょうか。
Azure Digital Twinsの仕組みは、以下のように、モデル化・リアルタイムデータ統合・クエリ処理・連携という流れで構成されています。
デジタルツインモデルの作成
Azure Digital Twinsは、デジタルツイン定義言語(DTDL)を使い、現実世界のオブジェクトやシステムのモデルを定義します。
モデルには、オブジェクトの構造(プロパティ、センサー情報)や、他のオブジェクトとの関係(接続性、位置関係)を設定します。モデルが作成されると、仮想空間にオブジェクトのデジタルツインが生成され、現実のシステムを忠実に再現できる基盤が完成します。
例:
以下は、オフィスの部屋をモデル化し、その部屋の温度だけをデジタルツインとして表現する例です。
{
"@id": "dtmi:example:OfficeRoom;1",
"@type": "Interface",
"displayName": "Office Room",
"contents": [
{
"@type": "Property",
"name": "temperature",
"schema": "double",
"displayName": "Temperature"
}
]
}
contents部分がデジタルツインの内容となっており、nameは「temperature」(温度)でschemaはdouble型(小数型)で、例えば「22.5」といった温度データを格納します。
このDTDLモデルを使うと、オフィスの部屋ごとに「温度」だけをデジタルツインとして管理できます。部屋の温度がリアルタイムで更新されるように設定することで、快適な温度管理や異常検知に役立てることができます。
リアルタイムデータの収集と統合
IoT HubやEvent Hubと連携して、IoTセンサーやデバイスからのデータを収集します。
収集されたデータはリアルタイムでデジタルツインに送信され、モデル内の各オブジェクトに反映されます。
データ処理と分析
デジタルツインの構成要素や状態を効率よく把握するために、Azure Digital Twinsでは独自のクエリ言語(Azure Digital Twins Query Language)が用意されています。
ユーザーはクエリを構築・実行し、Azure Digital Twinsのクエリエンジンがその指示に従って、デジタルツインのモデルやデータから特定の情報を抽出することができます。
クエリ結果は、さらなる分析をするのにも便利です。
例
「特定のエリアに属するデバイスの稼働状態を確認したい」といったクエリをユーザーが作成します。
するとAzure Digital Twinsのクエリエンジンが、指定されたクエリ内容に基づいてデジタルツインモデルのデータベースを検索し、条件に合致する情報を抽出します。
インサイト生成と外部システムへの連携
Azure Digital Twinsは、収集したデータや分析結果を基に、異常検知や傾向予測などのインサイトを生成します。
必要に応じて、Azure FunctionsやLogic Appsを介して外部のアプリケーションや管理システムに通知を送ることができ、自動化ワークフローや即時対応が可能になります。
さらに、分析結果はPower BIやAzure Machine Learning等と連携可能で、視覚化や機械学習モデルを用いた予測にも対応しています。
Azure Digital Twinsのセキュリティ
Azure Digital Twinsでは、重要なデータや操作が行われるため、強力なセキュリティ対策が施されています。
そこでここでは、Azure Digital Twinsでの主なセキュリティ機能についての説明します。
認証とアクセス管理
Azure Digital Twinsでは、Microsoft Entra IDを使用した認証により、信頼性の高いアクセス管理が行われています。ユーザーやアプリケーションのアクセス権限を適切に制限することで、システムの安全性を保つことができます。
Microsoft Entra IDについてはこちらもご覧ください。
➡️Microsoft Entra IDとは?その機能や料金体系をわかりやすく解説!
データの暗号化
Azure Digital Twinsでは、以下のようなデータを安全に扱うための暗号化機能が提供されています。
-
データの静止時暗号化
保存されたデータは自動的に暗号化され、セキュリティが強化されています。
-
データの送信時暗号化
ネットワーク経由でデータを送信する際も暗号化されるため、第三者による傍受を防止します。
ネットワークセキュリティ
Azure Digital Twinsは、ネットワークの安全性を高めるために、仮想ネットワークやファイアウォールを活用して、不正アクセスや攻撃からシステムを保護しています。
モニタリングと監査
Azure MonitorやMicrosoft Defender for Cloudを利用し、以下のような機能を利用した監視が可能です。
-
ログ監視
すべてのアクションが記録され、異常な行動やアクセスを検知することができます。 -
アラート通知
セキュリティリスクが発生した際にリアルタイムでアラートを発信し、迅速な対応が可能です。
Azure Monitorについてはこちらも参照してください。
【関連記事】
➡️Azure Monitorとは?導入目的やメリット、料金体系を解説
Azure Digital Twinsの作成
では実際にAzure Digital Twinsのリソースを作成する方法を以下に記します。
-
Azureポータルにアクセスし、Azureアカウントでサインインします。
Azureポータル画面
-
Azureポータル画面の「リソースの作成」で「azure digital twins」で検索し、「Azure Digital Twins」をクリックします。
AzureDigitalTwin選択画面
-
「リソースの作成」画面、「基本」タブで適切な設定をします。
「次へ : ネットワーク > 」をクリックします。
基本タブ画面
-
「ネットワーク」タブで適切な設定をします。
「次へ : 詳細 > 」をクリックします。
ネットワークタブ画面
-
「詳細」タブで適切な設定をします。
「確認および作成 」をクリックします。
詳細タブ画面
-
「確認および作成」タブで適切な設定がされていることを確認します。
「作成」をクリックします。
確認および作成タブ画面
Azure Digital Twinsの活用場面
では、実際にAzure Digital Twinsはどのような場面で役立つのでしょうか。ここでは具体的な活用場面についてご紹介します。
スマートビルディング
Azure Digital Twinsを使用すると、以下のようにシステムを統合的に管理することができます。
- エネルギー管理
各フロアや部屋の温度・電力消費量をリアルタイムで監視し、使用状況に合わせて自動的に調整することで、エネルギーの最適化を図ります。
- 空調と照明の自動制御
人の出入りや利用状況に応じて、空調や照明の調整が可能です。
- セキュリティ管理
入退室や異常検知に対応した自動通知機能があり、安全性を強化できます。
産業機器のメンテナンス
製造業では、Azure Digital Twinsを用いて工場内の機械や設備を次のようにモニタリングし、メンテナンスを効率化できます。
- 状態監視と異常検知
IoTセンサーで機器の温度や振動などの状態を追跡し、異常が発生した場合にリアルタイムでアラートを出します。
- 予防保全
機器の使用データを分析し、故障の兆候が現れた際にメンテナンスを実施することで、稼働停止時間を最小限に抑えます。
- 生産効率の最適化
設備の稼働率や効率をデジタルで追跡し、生産プロセスの改善に活用します。
都市管理
都市全体をデジタルツイン化することで、以下のようなインフラ管理や住民サービスの効率化が実現します。
- 交通管理
主要道路や公共交通機関の混雑状況をリアルタイムで監視し、渋滞を回避するための信号調整やルート案内を行います。
- インフラ管理
水道管や電力網の異常を早期に検知し、迅速に修理を行うことで、安定したインフラ供給を実現します。
- 防災対策
気象データや災害時のシミュレーションを行い、避難誘導や被害の予測が可能です。
Azure Digital Twinsの料金体系
Azure Digital Twinsの料金は、以下の表のとおりです。それぞれの項目が、異なる操作やリクエストに対するコストを表しています。
- メッセージ
IoTデバイスやアプリケーションがAzure Digital Twinsと通信する際のデータ送信(メッセージ)にかかる料金です。
- 操作
Azure Digital Twins内での操作(データの作成・更新・削除など)に対する料金です。
- クエリユニット
デジタルツインのデータに対してクエリを実行する際の料金です。
項目 | 料金 |
---|---|
メッセージ | 1,000,000 メッセージあたり ¥217.208 |
操作 | 100 万操作あたり ¥521.298 |
クエリユニット | 100 万クエリユニットあたり ¥101.364 |
※料金は変更される可能性があるため、公式ページで最新情報を確認してください。
まとめ
この記事では、Azure Digital Twinsの特徴・他のサービスとの連携・セキュリティ・ユースケース・料金などについてご紹介しました。
Azure Digital Twinsは、現実世界の環境やシステムをデジタル空間に再現し、リアルタイムでのデータ活用を可能にするサービスです。他のデジタルツインと比べて、Azureシステムとスムーズに統合できるため、幅広い用途で活用されています。またセキュリティ対策が整備されているため、重要なデータを安全に管理することもできます。
ぜひAzure Digital Twinsを導入して、データに基づく迅速な意思決定や効率化を実現するための強力なツールとして役立ててください。
この記事が皆様のお役に立てたら幸いです。