この記事のポイント
- Azure Virtual Desktop (AVD)は、Microsoftが提供するクラウドベースの仮想デスクトップサービス
- マルチセッションWindows対応、高度なセキュリティ機能、Microsoft 365との統合が主な特徴
- デプロイには適切なAzureサブスクリプションとライセンスが必要で、6ステップのプロセスで実施
- コストはライセンス料とAzureリソース使用量に基づき、不要なVMの停止や自動スケーリングでコスト最適化可能
- リモートワーク推進、ITインフラコスト削減、特殊業務環境対応などの用途で効果を発揮
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
リモートワークが進む昨今、企業はセキュリティを厳守しながらも、従業員の柔軟な働き方をサポートするソリューションを求めています。そこで注目されるのが、Microsoftが提供する「Azure Virtual Desktop(AVD)」です。
本記事では、AVDの概要から機能、導入メリット、デプロイ方法、コストについてまで、AVDに関する包括的な情報を提供します。仮想化技術とクラウドの利点を組み合わせたAVDは、企業のデジタルトランスフォーメーションを強力に推進し、多様なワークスタイルやビジネスニーズに合わせた効率的な運用を可能にします。 リモートアクセスの可能性を広げ、場所を問わずに安全な環境で業務に取り組めるAVDの魅力について、詳しくご紹介していきます。
Azureの基本知識や料金体系、利用方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
➡️Microsoft Azureとは?できることや各種サービスを徹底解説
目次
Azure Virtual DesktopとWindows 365との違い
マルチセッションWindows 10およびWindows 11
Azure Virtual Desktopとは
Azure Virtual Desktop(AVD)は、Microsoftが提供するクラウドサービスで、ユーザーに安全で柔軟な仮想デスクトップ環境を提供します。
インターネットを介して、Azureのインフラストラクチャ上で稼働するWindowsデスクトップやアプリケーションにアクセス可能です。
これにより、オフィスにいないリモートワーカーやフリーランサー、外勤の従業員でも、必要なツールやデータをいつでも利用できるようになります。
AVDは、場所やデバイスに縛られない柔軟な働き方を実現する、クラウドならではのソリューションといえるでしょう。
Azure Virtual Desktopのメリット
現代社会では、リモートワークとモバイルワークが急速に普及しており、企業は、従業員の生産性を維持しつつ、セキュリティを確保する必要に迫られています。
特に、機密性の高いデータを扱う業務では、従業員が外部から企業リソースにアクセスする際のセキュリティ対策が重要です。
AVDは、このような課題に対応するために設計されました。高度なセキュリティ機能を備えたAVDは、エンドポイントのセキュリティ状態に関係なく、安全な環境でアプリケーションやデータへのアクセスを可能にします。
これにより、企業はリモートワーカーをサポートしながら、セキュリティリスクを最小限に抑えつつ、ビジネスを円滑に運営することができます。
Azure Virtual DesktopとWindows 365との違い
Azure Virtual Desktop(AVD)とWindows 365は、どちらもMicrosoftが提供するクラウドベースのデスクトップソリューションですが、それぞれ異なる特徴と利点を持っています。
Windows 365は、ユーザーに専用のWindows環境を提供するシンプルなクラウドPCサービスです。セットアップが簡単で、主に小規模ビジネスや特定のユーザーグループに適しています。
一方、AVDは柔軟なスケーリングとマルチユーザーセッションを特徴とし、多様なビジネスニーズに対応できるカスタマイズ性の高いソリューションです。大企業や複雑な要件を持つ組織に適しており、より柔軟な管理とカスタマイズが可能です。
以下の表は、AVDとWindows 365の主な違いをまとめたものです。
特徴 | Azure Virtual Desktop (AVD) | Windows 365 |
---|---|---|
対象ユーザー | 大企業や複雑な要件を持つ組織 | 小規模ビジネスや特定のユーザーグループ |
スケーリングの柔軟性 | 高い(需要に応じてリソースをスケールアップ・ダウン可能) | 低い(固定のリソース割り当て) |
マルチユーザーセッション | サポートされている(一つの仮想マシンで複数のユーザーが同時に作業可能) | サポートされていない(専用のWindows環境が各ユーザーに提供される) |
カスタマイズ性 | 高い(アプリケーションやOSのカスタマイズが可能) | 限定的(シンプルなセットアップと限定されたカスタマイズオプション) |
管理の複雑性 | 高い(より詳細な管理とカスタマイズが必要) | 低い(使いやすい管理界面とシンプルなセットアップ) |
適用シナリオ | 多様なビジネスニーズに対応、大規模な組織や複雑なアプリケーション環境向け | 簡単な導入を求める小規模ビジネスや、特定の作業に特化したユーザーグループ向け |
組織のニーズや規模、IT管理リソースに応じて、AVDとWindows 365のどちらを選択するか検討することが重要です。両者の特徴を理解し、適切なソリューションを導入することで、リモートワークの生産性とセキュリティを最大化できるでしょう。
Azure Virtual Desktopの主な特徴
Azure Virtual Desktopが提供する機能は、リモートアクセス環境の可能性を広げます。以下に主な特徴を詳しく解説します。
マルチセッションWindows 10およびWindows 11
Azure Virtual Desktopの最大の特徴の一つは、Windows 10およびWindows 11のマルチセッション対応です。
従来のデスクトップ仮想化環境では、個々のユーザーごとに別々の仮想マシンを用意する必要があり環境コストが高騰する問題がありました。
しかし、AVDでは一つの仮想マシンで複数のユーザーセッションを同時に実行できるため、リソースを効率的に利用し、コスト削減に大きく貢献します。
組み込みのインテリジェントセキュリティ
セキュリティは、特にリモートアクセス環境において最も重要な要素です。Azure Virtual DesktopはAzureの強力なセキュリティ基盤に構築されており、多層的なセキュリティ対策を提供します。
Azure Active Directoryの認証メカニズム、条件付きアクセスポリシー、多要素認証、Microsoft Defender ATPとの統合など、組み込まれたインテリジェントセキュリティ機能により、エンドユーザーのセキュリティを強化します。
【関連記事】
Azureのセキュリティ対策を徹底解説!主要機能や製品、導入事例も
シームレスなMicrosoft 365統合
Microsoft 365とのシームレスな統合はAVDの別の強みです。ユーザーは環境に依存せず、Microsoft 365のアプリケーションへのアクセスと操作を実現できます。
これにより、Outlook、Word、Excelなどのアプリケーションを用いた作業の効率が大幅に向上し、企業全体の生産性が高められます。
Azure Virtual Desktopのデプロイ方法
Azure Virtual Desktopのデプロイは複雑に思えるかもしれませんが、正しい準備とステップに従えば簡単に実施できます。以下では、AVDを導入する前に必要な条件、デプロイプロセスについて説明します。
導入の前提条件
Azure Virtual Desktopを導入するためにはいくつかの前提条件があります。
- Azureのサブスクリプションを所持している
- 適切なライセンス(Windows 10/11 Enterprise for Virtual Desktopsなど)
また、AVDを管理するためのAzureの知識と、必要なネットワークインフラストラクチャが整っていることも重要です。
特に重要となる前提条件をピックアップして詳しく説明します。
1.有効なサブスクリプションが含まれるAzureアカウント
AVDのデプロイには、アクティブなサブスクリプションが含まれる Azure アカウントが必要です。
Azureサービスを無料でお試しできるプランも提供されているので、気になる方はこちらの記事をご覧ください。
➡️Azureの無料アカウントとは?作成方法やできることを徹底解説!
2.サポートされたOS
使用できるOSは以下の通りです。
- Windows 11 Enterprise マルチセッション
- Windows 11 Enterprise
- Windows 10 (Enterprise マルチセッション)
- Windows 10 Enterprise
- Windows Server 2022
- Windows Server 2019
- Windows Server 2016
- 適切なライセンス
セッションホストに使用するシステムによって異なります。- 「Windowsクライアントオペレーティングシステム」を使用している場合
- Microsoft 365 E3、E5、A3、A5、F3、Business Premium、Student Use Benefit
- Windows Enterprise E3、E5
- Windows Education A3、A5
ユーザーあたりの Windows VDA
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- 「WindowsServerオペレーティングシステム」を使用している場合
ソフトウェアアシュアランス付き (ユーザーごとまたはデバイスごと) リモートデスクトップ サービス (RDS) クライアントアクセスライセンス (CAL)、またはRDSユーザーサブスクリプションライセンス。
- 「Windowsクライアントオペレーティングシステム」を使用している場合
実際のデプロイ手順
Azure Virtual Desktopのデプロイ工程は6つのステップに分かれています。
- ホストプールを作成する
Azure Portalにアクセスし、「ホストプールを作成する」までスクロールした後に自分の利用するシナリオに合ったタブを選択すると、手順が表示されます。
【Azure Portalの操作方法はこちら】
➡️Azure Portalとは?操作方法やメリットをわかりやすく解説!
ホストプールの作成
以降、各番号の順で手順解説部分を参考に、ご自身の利用するシナリオに合ったタブを選択して、手順に従ってください。
- ワークスペースを作成します。
- アプリケーション グループを作成します。
- セッション ホスト仮想マシンを作成します。
- 診断設定を有効にします ("省略可能")。
- ユーザーがデスクトップやアプリケーションにアクセスできるように、ユーザーまたはグループをアプリケーショングループに割り当てます
Azure Virtual Desktopの価格体系
Azure Virtual Desktopのコストは、リソース利用に基づいて計算されます。
使用する仮想マシンの種類、サイズ、稼働時間、ストレージ、ネットワーク利用量など(Azureインフラストラクチャコスト)が課金の対象となります。
AVDを利用するには、特定のMicrosoft 365またはWindowsライセンスが必要ですが、それに加えてAzureのリソース使用量に応じた費用が発生する点に注意が必要です。
つまり、次のような式で料金が決まります。
料金 = ライセンス×人数分 + Azureインフラストラクチャコスト
この式から分かるように、ご自身が使用する環境と条件によってかなり値段が変動するので、具体的な数値は以下を参照してください。
Azure Virtual Desktop の価格
【関連記事】
➡️Azureの料金計算ツールの利用方法!基本機能や円表示の手順を解説
コスト削減のヒント
費用対効果を最大化するためのコツとして、まずは不要な仮想マシンは停止または削除することが挙げられます。
自動スケーリング機能を使って需要に応じてリソースを動的に調整することで、リソースの無駄遣いを防ぎます。
また、予約インスタンスなどの事前払いオプションを利用することで、長期的なコスト削減が可能です。
【シナリオ別】Azure Virtual Desktopのユースケース3選
は、様々なビジネスシナリオで活用できる汎用性の高いソリューションです。ここでは、AVDが特に効果を発揮する3つのユースケースを紹介します。
リモートワークの推進
AVDを導入することで、従業員はどこからでも安全に会社のデスクトップ環境にアクセスできるようになります。
場所に依存しない柔軟な働き方を実現し、ワークライフバランスの改善や生産性の向上が期待できます。
ITインフラコストの最適化
AVDは、物理的なデスクトップやサーバーにかかる費用を削減し、デスクトップ環境の管理を簡素化します。
クラウドベースのソリューションにより、ハードウェアの調達や維持にかかる費用を抑え、ITインフラの運用コストを最適化できます。
また、集中管理により、管理業務の効率化も実現します。
特殊な業務環境への対応
AVDは、高いセキュリティ要件や特殊なソフトウェアを必要とする業務環境にも適しています。
機密データを扱う金融機関や、CADなどの専門アプリケーションを使用する設計事務所などで、セキュアで柔軟なデスクトップ環境を提供します。
これらのユースケースは、AVDの持つ柔軟性、セキュリティ、コスト効率性を活かしたものです。組織のニーズに合わせてAVDを導入することで、リモートワーク、コスト最適化、特殊業務への対応などの分野で大きなメリットを得ることができるでしょう。
Azure Virtual Desktopの導入事例
世界各地でAVD(Azure Virtual Desktop)は異なる業界に導入され、それぞれのビジネスのニーズに応えています。
例えば、タカラスタンダード株式会社(以下、タカラ)は、顧客満足の向上をAVDで実現しました。
タカラは、自身が提供する見積提案システムが利用シーンの増加に伴って、パフォーマンスが課題となる場面に直面し、これを解消する目的でAVDを導入しました。
これによって定量的には、2~3分かかっていた処理が15秒にまで短縮されており AVD によってパフォーマンスを急激に向上させました。
(参考:Microsoft)
Azureの導入事例をより詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
➡️Azureの導入事例紹介ページ
まとめ
Azure Virtual Desktop (AVD) は、現代のビジネスが直面するユビキタスな働き方、セキュリティの強化、インフラストラクチャの最適化といった課題に対して優れたソリューションを提供します。この記事では、AVDの基本概念から始まり、その特徴、デプロイ方法、コスト構造、具体的なユースケースなど幅広い情報を網羅しました。
次世代のワークプレイスを構築する足掛かりとして、Azure Virtual Desktopはビジネスのデジタルトランスフォーメーションを推進する上で無くてはならない存在といえるでしょう。AVDは、進化し続けるIT環境の中で、企業が競争力を保ち、成長を続けるための強力なツールです。