この記事のポイント
DLSSはNVIDIAのAIアップスケーリング技術で、低解像度レンダリングを高画質化しフレームレートを向上
GeForce RTXシリーズのTensorコアを利用し、特に高解像度やレイトレ時に効果を発揮
バージョンアップで画質向上、フレーム生成(DLSS 3/4)、レイ再構成(DLSS 3.5)などの機能追加
対応GPUと対応ゲームが必要だが、簡単な設定で利用可能
AMD FSRやIntel XeSSといった競合技術も存在し、環境に応じて選択

Microsoft MVP・AIパートナー。LinkX Japan株式会社 代表取締役。東京工業大学大学院にて自然言語処理・金融工学を研究。NHK放送技術研究所でAI・ブロックチェーンの研究開発に従事し、国際学会・ジャーナルでの発表多数。経営情報学会 優秀賞受賞。シンガポールでWeb3企業を創業後、現在は企業向けAI導入・DX推進を支援。
NVIDIA GeForce RTXシリーズのグラフィックボードを使っている、またはこれからゲーミングPCの購入を検討しているなら、「DLSS」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
「DLSSを使うとゲームが快適になるらしいけど、具体的に何が変わるの?」「設定はどうやるの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、NVIDIAが開発した革新的なAI技術「DLSS (Deep Learning Super Sampling)」について、その基本的な仕組みから具体的なメリット・デメリット、バージョンによる違い、設定方法、さらにはAMD FSRやIntel XeSSといった類似技術との比較まで、網羅的に解説します。
DLSSを理解し活用することで、あなたのゲーミング体験は格段に向上するはずです。ぜひ最後までご覧いただき、快適なゲーム環境を手に入れるための一助としてください。
目次
DLSSの進化を理解する:DLSS 1からDLSS 4までの変遷と特徴
【DLSS 2】 AIアルゴリズムの改善で画質と汎用性が向上
【DLSS 3】 フレーム生成(Frame Generation)でさらなるFPS向上を実現 (RTX 40シリーズ以降)
【DLSS 3.5】 レイ再構成(Ray Reconstruction)でレイトレーシングの画質を強化
【DLSS 4】 Transformerモデルとマルチフレーム生成でさらなる進化 (RTX 50シリーズ)
対応するNVIDIA GeForce RTXグラフィックボードが必要
DLSS対応NVIDIA GeForce RTXシリーズ一覧【世代別】
DLSSだけじゃない?他のアップスケーリング技術との比較 (FSR / XeSS)
AMD FidelityFX Super Resolution (FSR) との違い
Intel Xe Super Sampling (XeSS) との違い
DLSSとは?
DLSS(Deep Learning Super Sampling:ディープラーニング スーパー サンプリング)とは、NVIDIAが開発した、AI(人工知能)を活用してゲームの映像を高画質化・高フレームレート化する技術です。
簡単に言うと、**実際にゲーム画面を描画(レンダリング)する際は少し低い解像度で行い、それをAIの力で目標とする高解像度の映像に賢く引き伸ばす(アップスケーリング)**というものです。
DLSSのイメージ (参考:NVIDIA)
例えば、4Kモニターでゲームをプレイしたい場合、通常はGPUが4K解像度(3840x2160ピクセル)で直接レンダリングしますが、これはGPUに非常に高い負荷がかかります。
DLSSを使うと、例えばWQHD(2560x1440ピクセル)のような少し低い解像度でレンダリングし、それをAIが4K相当の画質になるように補完・生成します。
これにより、GPUの負荷を大幅に軽減しつつ、見た目には高解像度でプレイしているのと遜色ない、あるいはそれに近い映像品質を得ることが可能になります。
DLSSの仕組み
DLSSの「DL」はDeep Learning(深層学習)の略です。この技術の核となるのが、NVIDIAのスーパーコンピューターで事前にトレーニングされた高度なAIモデルです。
このAIモデルは、膨大な量の「低解像度のゲーム画像」と「対応する高解像度のゲーム画像(いわば正解の画像)」、そして「ゲーム内の動きベクトル(物体の移動方向や速度を示す情報)」を学習しています。
低解像度フレーム+モーションベクトル→DLSS 2.0モデル→高解像度出力のパイプライン (参考:NVIDIA
実際にゲーム内でDLSSが動作する際には、GeForce RTXシリーズのグラフィックボードに搭載されている「Tensorコア」というAI処理専用のプロセッサが活躍します。
Tensorコアは、学習済みAIモデルを使って、リアルタイムで以下の処理を行います。
-
低解像度でレンダリングされたフレームを取得:
まず、GPUは目標解像度よりも低い解像度でフレームを描画します。
-
過去のフレームと動きベクトルを参照:
AIモデルは、現在のフレームだけでなく、一つ前のフレームの情報や、画面内のオブジェクトがどのように動いているかを示す「動きベクトル」も参照します。
-
高解像度フレームを推論・生成:
これらの情報を基に、AIモデルはピクセル単位で「本来あるべき高解像度のピクセル」を推論し、補完・生成します。
これにより、単純な引き伸ばし(アップスケール)では失われてしまうディテールやシャープさを復元し、高画質なフレームを作り出します。
この一連の処理を瞬時に行うことで、DLSSはGPU負荷を軽減しつつ、高画質を実現しているのです。
従来の単純なアップスケーリング技術やアンチエイリアシング技術(TAAなど)と比較して、特に動きのあるシーンでの精細さや、細い線の表現などで優位性があるとされています。
DLSSが目指すもの:高フレームレートと高画質の両立
ゲーミングにおいて、「高画質」と「高フレームレート(滑らかな動き)」は、どちらも快適なプレイのために非常に重要ですが、これらはトレードオフの関係にあります。
グラフィック設定を上げて高画質を追求すればフレームレートは低下し、逆にフレームレートを優先すれば画質を妥協せざるを得ません。
特に、レイトレーシングのような高度なグラフィック技術を使用したり、4Kなどの高解像度でプレイしたりする場合、このジレンマはより顕著になります。
DLSSは、AIの力を借りることで、このトレードオフを打破することを目指しています。
GPUのレンダリング負荷を低解像度化によって軽減し、その余力をフレームレート向上に振り向けつつ、AIによる高品質なアップスケーリングによって画質の低下を最小限に抑える、あるいはネイティブ解像度に近い品質を維持します。
これにより、ゲーマーは高画質設定を維持したまま、より滑らかで快適なフレームレートでゲームを楽しめるようになります。これが、DLSSが「ゲーミング体験を革新する技術」と呼ばれる所以です。
DLSSの進化を理解する:DLSS 1からDLSS 4までの変遷と特徴
DLSSは2018年の登場以来、継続的に進化を続けてきました。バージョンアップごとに画質やパフォーマンスが改善され、新たな機能も追加されています。ここでは、DLSSの主要なバージョンとその特徴を解説します。
【DLSS 1】 初期バージョンとその課題
2018年にGeForce RTX 20シリーズと共に登場した最初のDLSS(DLSS 1.0)は、画期的なコンセプトでしたが、いくつかの課題も抱えていました。
最大の特徴は、AIモデルをゲームタイトルごとに個別にトレーニングする必要があったことです。これにより、開発者がDLSSを導入する手間が大きく、対応タイトルがなかなか増えませんでした。
また、画質面でも、特に静止画ではネイティブ解像度に比べてディテールがぼやける、シャープネスが強すぎるといった評価があり、必ずしも全てのユーザーに受け入れられたわけではありませんでした。
パフォーマンス向上効果はあったものの、限定的な対応状況と画質への懸念から、普及は限定的でした。
【DLSS 2】 AIアルゴリズムの改善で画質と汎用性が向上
2020年に登場したDLSS 2.0は、DLSS 1.0の課題を大幅に改善し、広く普及するきっかけとなったバージョンです。
最大の変更点は、汎用的なAIネットワークを採用したことです。これにより、ゲームごとにAIモデルをトレーニングする必要がなくなり、開発者は比較的容易にDLSSをゲームに統合できるようになりました。
その結果、対応タイトルが一気に増加しました。
DLSS 2 (Super Resolution) の仕組み。低解像度フレームと動きベクトルからAIが高解像度フレームを生成しFPSを向上させる。(参考:NVIDIA)
画質面でも大きな進化を遂げ、時系列フィードバック(Temporal Feedback) という技術を取り入れることで、複数のフレームからの情報を活用し、よりシャープで安定した、ネイティブ解像度に匹敵する、あるいはそれ以上の画質を実現できるケースも出てきました。
動きベクトル(Motion Vector)の活用も改善され、動きのあるシーンでのゴースト現象なども大幅に抑制されました。
DLSS 2.xとして細かなアップデートも重ねられ、現在でも多くのゲームで基盤技術として利用されています。(DLSS 2.1, 2.3など)
【DLSS 3】 フレーム生成(Frame Generation)でさらなるFPS向上を実現 (RTX 40シリーズ以降)
2022年、GeForce RTX 40シリーズと共に発表されたDLSS 3は、従来のDLSS(超解像度:Super Resolution)に加えて、「フレーム生成(Frame Generation)」 という全く新しい機能を追加しました。
図解:DLSS 3の仕組み。DLSS 2の超解像に加え、Optical Flow Acceleratorを利用したAIフレーム生成で間に新しいフレームを挿入し、FPSをさらに引き上げる。(参考:NVIDIA)
フレーム生成は、AIを使ってレンダリングされたフレームとフレームの間に、全く新しいフレームを生成・挿入する技術です。
例えば、GPUが60FPSでレンダリングしている場合、その間にAIが60フレームを生成して挿入することで、見た目上のフレームレートを120FPSに倍増させることができます。
このフレーム生成機能は、RTX 40シリーズに搭載された新しい「Optical Flow Accelerator」というハードウェアを利用するため、GeForce RTX 40シリーズ以降のGPUでのみ利用可能です。(DLSS 3の超解像度機能自体は、RTX 20/30シリーズでも利用可能)
【DLSS 3.5】 レイ再構成(Ray Reconstruction)でレイトレーシングの画質を強化
2023年に発表されたDLSS 3.5では、「レイ再構成(Ray Reconstruction)」 という新機能が導入されました。これは、レイトレーシング使用時の画質をさらに向上させることを目的とした技術です。
図解:DLSS 3.5 レイ再構成の仕組み。ノイズを含むサンプリング光線や動きベクトル、時間情報をAIに入力し、超解像処理と統合して高品質なレイトレーシング画像を生成します。フレーム生成とも連携可能です(参考:NVIDIA)
レイトレーシングでは、ノイズを除去するために「デノイザー」という処理が不可欠ですが、従来のデノイザー(特に手作業で調整されたもの)では、情報が欠落したり、ゴーストが発生したり、ライティングの品質が低下したりすることがありました。
レイ再構成は、AIを活用した新しいデノイズ技術であり、NVIDIAのスーパーコンピューターでトレーニングされたAIネットワークが、サンプリングされたレイトレーシングの光線間のピクセルをより賢く生成します。
これにより、従来のデノイザーよりも高品質なレイトレーシング映像(より精細な反射、より正確なグローバルイルミネーション、よりシャープな影など)を実現できます。
【DLSS 4】 Transformerモデルとマルチフレーム生成でさらなる進化 (RTX 50シリーズ)
2025年のCESで発表されたDLSS 4は、GeForce RTX 50シリーズ(コードネーム: Blackwell)と共に登場する最新バージョンです。大きな進化点として、以下の2つが挙げられます。
1.TransformerベースのAIモデル採用:
DLSS 4で採用されたTransformerベースのAIモデルの概念図。 (参考:NVIDIA)*
従来の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)ベースのモデルから、ChatGPTなどでも使われるより高度なTransformerモデルへと移行しました。
これにより、画面全体のピクセルの関連性をより深く理解し、複数フレームにわたる時間的な安定性が向上。動きのあるシーンでのゴースティングやシマリング(ちらつき)が大幅に削減され、全体的な画質が向上するとされています。
この画質向上は、全てのRTXシリーズGPU(20/30/40/50)で恩恵を受けられます。
2.マルチフレーム生成 (Multi Frame Generation):
DLSS 4 マルチフレーム生成のプロセス概要。1つのレンダリングフレームから3つのAI生成フレームを追加。 (参考:NVIDIA)
DLSS 3のフレーム生成をさらに進化させ、レンダリングされた1フレームに対して最大3つの追加フレームをAIが生成します。
これにより、理論上はフレームレートを最大4倍に向上させることが可能になります。
DLSS 4は、全世代のRTXユーザーに対して画質向上をもたらしつつ、最新のRTX 50シリーズユーザーには圧倒的なパフォーマンス向上を提供する、大きな進化と言えるでしょう。
【DLSS バージョン別 主要機能と対応GPU】
機能 | DLSS 1 | DLSS 2 (Super Resolution) | DLSS 3 (Frame Generation) | DLSS 3.5 (Ray Reconstruction) | DLSS 4 (Multi Frame Generation) | DLSS 4 (Transformer Model SR) |
---|---|---|---|---|---|---|
主な目的 | FPS向上 | 高画質化 & FPS向上 | さらなるFPS向上 | レイトレ画質向上 | 大幅なFPS向上 | さらなる高画質化 |
対応GPU | RTX 20~ | RTX 20 / 30 / 40 / 50 | RTX 40 / 50 のみ | RTX 20 / 30 / 40 / 50 | RTX 50 のみ | RTX 20 / 30 / 40 / 50 |
AIモデル | 個別 | 汎用CNN | 汎用CNN + OFA | 汎用CNN + AIデノイザー | Transformer + 新OFA | Transformer |
リリース時期(目安) | 2018年 | 2020年 | 2022年 | 2023年 | 2025年 | 2025年 |
※OFA: Optical Flow Accelerator
DLSSのメリット
DLSSを利用することで、ゲーマーは具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか?ここでは主な3つの恩恵について解説します。
フレームレート(FPS)が劇的に向上し、滑らかな映像に
DLSSの最大のメリットは、なんといってもフレームレート(FPS: Frames Per Second)の大幅な向上です。FPSは1秒間に画面が何回更新されるかを示す数値で、この値が高いほど映像が滑らかに見え、ゲームの操作感も向上します。
DLSSは、GPUがレンダリングする解像度を下げることで処理負荷を軽減するため、同じグラフィック設定でもDLSSを有効にするだけでFPSが数十パーセント、場合によっては2倍以上に向上することもあります。
特に、GPUの性能限界に近い設定でプレイしている場合や、高リフレッシュレート(120Hz、144Hz、240Hzなど)のゲーミングモニターを使用している場合に、その効果を大きく実感できます。
例えば、最新のAAAタイトルを高画質設定でプレイした際にFPSが60を下回ってしまうような状況でも、DLSSを有効にすることで安定して60FPS以上を維持できたり、100FPSを超えるような滑らかな映像でプレイできたりする可能性があります。
高解像度モニターでのゲーミングがより快適に
4K (3840x2160) やWQHD (2560x1440) といった高解像度モニターは、精細で美しい映像を楽しめる反面、GPUに非常に高い負荷をかけます。
そのため、ハイエンドなグラフィックボードでなければ、高解像度で快適なフレームレートを維持するのは困難でした。
DLSSは、このような高解像度ゲーミングのハードルを大きく下げてくれます。
例えば、4Kモニターでプレイする場合でも、内部的にはWQHDなどのより低い解像度でレンダリングし、AIによって4K相当の画質にアップスケーリングすることで、4Kネイティブレンダリングよりも大幅に高いFPSを実現できます。
これにより、ミドルレンジのグラフィックボードでも4Kゲーミングが視野に入ったり、ハイエンドグラフィックボードであれば、より高いグラフィック設定やフレームレートで4Kゲーミングを楽しめるようになったりします。高解像度モニターの性能を
最大限に活かしたいゲーマーにとって、DLSSは非常に強力な味方となるでしょう。
負荷の高いレイトレーシング有効時のパフォーマンスを改善
レイトレーシングは、光の反射や屈折、影の表現を物理的にシミュレートすることで、現実世界のようなリアルな映像を生み出す革新的なグラフィック技術です。しかし、その計算処理は非常に複雑で、GPUに極めて高い負荷がかかるため、有効にするとフレームレートが大幅に低下するという大きな課題がありました。
DLSSは、このレイトレーシング使用時のパフォーマンス低下を補う上で非常に効果的です。レイトレーシングを有効にした上でDLSSも併用することで、レイトレーシングによるリアルな映像美を楽しみつつ、DLSSによるパフォーマンス向上によって、快適なフレームレートを維持することが可能になります。
NVIDIAがレイトレーシングとDLSSをセットで推進している背景には、この相性の良さがあります。レイトレーシング対応ゲームを最高のグラフィック設定で楽しみたいなら、DLSSの活用はほぼ必須と言えるでしょう。
特に、GeForce RTXシリーズの中でもミドルレンジ以下のモデル(RTX xx60, xx70など)でレイトレーシングを使用する場合、DLSSはそのパフォーマンスを実用的なレベルに引き上げる上で欠かせない技術となります。
DLSSのデメリットと注意点:導入前に知っておきたいこと
DLSSは非常に強力な技術ですが、利用にあたってはいくつかのデメリットや注意点も存在します。導入を検討する際には、これらの点も理解しておくことが重要です。
対応するNVIDIA GeForce RTXグラフィックボードが必要
DLSSはNVIDIA独自の技術であり、その処理にはAI演算に特化した「Tensorコア」 を使用します。
そのため、DLSSを利用するには、Tensorコアを搭載したNVIDIA GeForce RTXシリーズのグラフィックボード(RTX 20シリーズ、RTX 30シリーズ、RTX 40シリーズ、RTX 50シリーズなど)が必須となります。
GeForce GTXシリーズ以前のグラフィックボードや、AMD Radeonシリーズ、Intel Arcシリーズなどの他社製グラフィックボードでは、基本的にDLSSを利用することはできません。(AMDにはFSR、IntelにはXeSSという類似のアップスケーリング技術があります)。
したがって、DLSSの恩恵を受けたい場合は、まず自分のPCにGeForce RTXシリーズのグラフィックボードが搭載されているかを確認する必要があります。
全てのゲームで使えるわけではない
DLSSは、ゲーム開発者側が意図的にゲームエンジンに組み込む必要のある技術です。そのため、残念ながら全てのPCゲームでDLSSが利用できるわけではありません。
近年、DLSSに対応するゲームタイトルは大幅に増加しており、多くの人気AAAタイトルや主要なゲームエンジン(Unreal Engine, Unityなど)でサポートされていますが、それでも未対応のゲームもまだ存在します。
特に、少し古いゲームやインディーゲームなどでは対応していないケースが多く見られます。
プレイしたいゲームがDLSSに対応しているかどうかは、NVIDIAの公式サイトや各ゲームのストアページ、設定メニューなどで確認する必要があります。
せっかくRTXグラフィックボードを持っていても、プレイしたいゲームがDLSSに対応していなければ、その恩恵を受けることはできません。
シーンや設定による見え方の違い
DLSSはAIによって高画質化を行うとはいえ、元々は低い解像度でレンダリングされた映像を引き伸ばしているため、ネイティブ解像度でのレンダリングと比較した場合、わずかに画質が変化する可能性があります。
特に、DLSSの品質モード設定によっては、その影響が顕著になる場合があります。
DLSSには通常、以下のような品質モードが用意されており、パフォーマンス(FPS)と画質のバランスを調整できます。
- クオリティ (Quality): 最も画質を優先するモード。ネイティブ解像度に最も近い見た目を目指すが、FPS向上率は控えめ。
- バランス (Balanced): 画質とパフォーマンスのバランスを取ったモード。多くの場合、良好な画質と十分なFPS向上が得られる。
- パフォーマンス (Performance): 最もFPS向上を優先するモード。画質の低下がやや目立つ可能性があるが、FPSは最も大きく向上する。
- ウルトラパフォーマンス (Ultra Performance): 8Kゲーミングなど、極めて高いパフォーマンスが必要な場合に使用。画質への影響は最も大きい。
どのモードを選択するかにもよりますが、「パフォーマンス」モードなどでは、シーンによってはテクスチャのディテールが若干ぼやけたり、細い線が途切れて見えたり(シマリング)、動きの速いオブジェクトの周りにわずかな残像(ゴースティング)が発生したりする可能性が指摘されています。
ただし、DLSSのバージョンアップ(特にDLSS 2以降)に伴い、これらの画質面での課題は大幅に改善されています。最新のDLSS 4では、Transformerモデルの採用により、ゴースティングやシマリングがさらに削減されるとされています。
最終的な画質の感じ方には個人差もあるため、実際にゲーム内で設定を切り替えてみて、自分の好みに合うモードを探すのが良いでしょう。
低解像度からのアップスケールには限界も
DLSSは魔法のような技術ですが、その基盤はあくまで「低解像度からのアップスケーリング」です。そのため、元となるレンダリング解像度があまりにも低い場合、AIが補完できる情報にも限界があります。
例えば、フルHD(1920x1080)モニターで「パフォーマンス」モード(内部レンダリング解像度がHD相当になる場合がある)を使用すると、アップスケーリングによる画質の粗さが目立ちやすくなる可能性があります。
一般的に、DLSSはWQHDや4Kといった高解像度モニターで使用する際に、より画質の低下を感じにくく、かつパフォーマンス向上の恩恵を大きく受けられる傾向があります。
また、UI(ユーザーインターフェース)要素やテキストなど、ピクセル単位での正確性が求められる部分は、アップスケーリングの影響を受けやすい場合があります。
ただし、多くのゲームではUI要素はネイティブ解像度でレンダリングされるように工夫されているため、大きな問題になるケースは少ないです。
DLSSの対応グラフィックボード
DLSSの素晴らしい機能を活用するには、特定のハードウェア(グラフィックボード)と、DLSSに対応したソフトウェア(ゲームやアプリケーション)が必要です。ここでは、その具体的な条件について見ていきましょう。
DLSS対応NVIDIA GeForce RTXシリーズ一覧【世代別】
前述の通り、DLSSの利用にはNVIDIAのGeForce RTXシリーズのグラフィックボードが必須です。
以下に、DLSSに対応する主なGPUシリーズを世代別に示します。(2025年4月時点)
DLSS 機能 | RTX 50 (Blackwell) | RTX 40 (Ada Lovelace) | RTX 30 (Ampere) | RTX 20 (Turing) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
DLSS 4 Multi Frame Generation | ✔ | - | - | - | RTX 50シリーズ専用 |
DLSS 4 Transformer SR | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | 全てのRTXシリーズで画質向上 |
DLSS 3.5 Ray Reconstruction (RR) | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | レイトレーシング画質向上 (全RTX) |
DLSS 3 Frame Generation (FG) | ✔ | ✔ | - | - | RTX 40シリーズ以降専用 |
DLSS 2 Super Resolution (SR) | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | 基本的なAI超解像 (全RTX) |
DLAA (Deep Learning Anti-Aliasing) | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | ネイティブ解像度でのAA品質向上 (全RTX) |
主なモデル例 | RTX 5090 etc. | RTX 4090 etc. | RTX 3090 etc. | RTX 2080 Ti etc. | - |
ご自身のグラフィックボードがどのシリーズに該当するかを確認し、利用可能なDLSSのバージョンや機能を把握しておきましょう。
DLSS対応のゲームタイトルを紹介【ジャンル別】
DLSSに対応するゲームタイトルは日々増え続けており、2025年初頭時点で数百タイトル以上、DLSS 3(フレーム生成)対応タイトルも100を超えています。
ここでは、特に人気のあるDLSS対応タイトルの一部をジャンル別に紹介します。(対応状況は変更される可能性があります)
アクション / アドベンチャー
ゲームタイトル | 対応DLSSバージョン / 主な機能 |
---|---|
『サイバーパンク2077 (Cyberpunk 2077)』 | DLSS 4 (MFG), DLSS 3.5 (RR), DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『Alan Wake 2』 | DLSS 4 (MFG), DLSS 3.5 (RR), DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク (God of War Ragnarök)』 (PC版) | DLSS 4 (MFG対応予定), DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『Marvel's Spider-Man Remastered』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『ホグワーツ・レガシー (Hogwarts Legacy)』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『Star Wars Outlaws』 | DLSS 3.5 (RR対応予定), DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『ディアブロ IV (Diablo IV)』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『レッド・デッド・リデンプション2 (Red Dead Redemption 2)』 | DLSS 2 (SR) |
『Ghost of Tsushima Director's Cut (PC版)』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
FPS/TPS:
ゲームタイトル | 対応DLSSバージョン / 主な機能 |
---|---|
『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェアIII / ウォーゾーン』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『バトルフィールド 2042 (Battlefield 2042)』 | DLSS 2 (SR) |
『Apex Legends』 | DLSS 2 (SR) |
『フォートナイト (Fortnite)』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『オーバーウォッチ 2 (Overwatch 2)』 | DLSS 3 (Reflexメイン, FG対応?), DLSS 2 (SR) |
『DOOM Eternal』 | DLSS 2 (SR) |
『レインボーシックス シージ (Tom Clancy's Rainbow Six Siege)』 | DLSS 2 (SR) |
RPG:
ゲームタイトル | 対応DLSSバージョン / 主な機能 |
---|---|
『ウィッチャー3 ワイルドハント (The Witcher 3: Wild Hunt)』 (Next-Gen) | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『ファイナルファンタジーXIV (FINAL FANTASY XIV)』 | DLSS 2 (SR) |
『ELDEN RING』 | 非対応 (MOD等あり) |
『モンスターハンターワイルズ (Monster Hunter Wilds)』 | 対応予定 |
シミュレーション/その他:
ゲームタイトル | 対応DLSSバージョン / 主な機能 |
---|---|
『Microsoft Flight Simulator』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『F1 23』 | DLSS 3 (FG), DLSS 2 (SR) |
『Portal with RTX』 | DLSS 3.5 (RR), DLSS 2 (SR) |
上記はあくまで一部であり、紹介しきれないほど多くのタイトルがDLSSに対応しています。
DLSS対応ゲームの最新情報を確認する方法
DLSS対応ゲームのリストは常に更新されています。最新の情報を確認するには、以下の方法が有効です。
- NVIDIA GeForce公式サイト:
NVIDIAは定期的にDLSS対応ゲームに関するニュースリリースやブログ記事を公開しています。公式サイトのニュースセクションや、DLSS技術の紹介ページを確認しましょう。
▶︎NVIDIA DLSS Supported Games List
- ゲームのストアページ (Steam, Epic Games Storeなど):
各ゲームの販売ページには、対応している技術(DLSS、レイトレーシングなど)が記載されていることが多いです。
- ゲーム内の設定メニュー:
実際にゲームを起動し、グラフィック設定メニュー内にDLSS関連の項目があるかを確認するのが最も確実です。
- ゲーミング関連ニュースサイト:
大手ゲームメディアやPCハードウェア情報サイトなども、新しいDLSS対応タイトルの情報を報じることがあります。
プレイしたいゲームや気になる新作タイトルがDLSSに対応しているか、積極的に情報をチェックしてみましょう。
DLSSだけじゃない?他のアップスケーリング技術との比較 (FSR / XeSS)
NVIDIA DLSSは非常に強力なアップスケーリング技術ですが、市場にはAMDやIntelが開発した類似の技術も存在します。
ここでは、主要な競合技術であるAMDのFSR (FidelityFX Super Resolution) とIntelのXeSS (Xe Super Sampling) を取り上げ、DLSSとの違いや特徴を比較してみましょう。
AMD FidelityFX Super Resolution (FSR) との違い
FSRはAMDが開発したアップスケーリング技術で、DLSSの直接的な競合技術とされています。
FSRの最大の特徴は、特定のハードウェア(Tensorコアのような専用AIプロセッサ)を必要としない点です。
互換性
FSRは、AMD Radeon GPUはもちろん、NVIDIA GeForce GPU(GTXシリーズ含む)やIntel Arc GPUなど、幅広いグラフィックボードで利用可能です。
これは、より多くのユーザーが恩恵を受けられるという大きなメリットです。
仕組み:
FSR 1.0/2.0は、主に空間的アップスケーリング(Spatial Upscaling)と時間的アップスケーリング(Temporal Upscaling)のアルゴリズムに基づいており、AI(ディープラーニング)は必須ではありませんでした。
(ただし、最新のFSR 3ではフレーム生成機能が追加され、FSR 4では機械学習ベースの処理への移行が示唆されています)
画質とパフォーマンス:
一般的に、FSRも良好なパフォーマンス向上を実現しますが、特に動きの激しいシーンなどにおいて、DLSS(特にDLSS 2以降)と比較すると、画質面(ディテールの維持、ゴーストやシマリングの抑制)でやや劣る場合があるという評価が見られます。ただし、バージョンアップにより改善が進んでいます。
オープンソース:
FSRはGPUOpenイニシアチブを通じてオープンソースとして提供されており、ゲーム開発者が比較的容易に導入できるという利点もあります。
Intel Xe Super Sampling (XeSS) との違い
XeSSはIntelが開発したアップスケーリング技術で、Intel Arc GPUの登場に合わせて本格的に展開されました。XeSSは、DLSSとFSRの中間的な特徴を持っています。
互換性:
XeSSには2つの動作モードがあります。
- XMX版: Intel Arc GPUに搭載されている**「XMXコア」(AIアクセラレータ)** を使用するモード。DLSSと同様にAI(ディープラーニング)を活用し、高品質なアップスケーリングを目指します。
- DP4a版: XMXコアがないGPU(NVIDIA GeForce GTX/RTXシリーズの一部、AMD Radeon RX 6000シリーズ以降など)でも動作する汎用モード。業界標準のDP4a命令セットを使用します。
この2モードにより、Intel Arc GPUでは最高の品質を、他社製GPUでも(品質は若干劣る可能性があるものの)利用できるという柔軟性を持っています。
仕組み:
XMX版ではDLSSと同様にAIモデルを使用し、DP4a版では従来のアルゴリズムに近いアプローチを取ります。
画質とパフォーマンス:
XMX版XeSSはDLSSに近い画質を実現できるポテンシャルがあると評価されています。
DP4a版はFSRに近い特性を持つと言われます。対応タイトルはDLSSやFSRに比べるとまだ少ないですが、徐々に増えています。
【比較表】DLSS vs FSR vs XeSS:特徴・対応環境・画質の傾向
以下に、3つの主要なアップスケーリング技術の特徴をまとめます。(2025年4月時点の一般的な傾向)
特徴 | NVIDIA DLSS (2/3/3.5/4) | AMD FSR (2/3/4) | Intel XeSS (1.x) |
---|---|---|---|
開発元 | NVIDIA | AMD | Intel |
主な仕組み | AI (深層学習) + Tensorコア | 空間/時間的アルゴリズム (FSR4でMLベースへ移行?) | AI (深層学習) + XMXコア / DP4a命令 |
必須ハードウェア | NVIDIA GeForce RTXシリーズ | なし (幅広いGPUで動作) | Intel Arc GPU (XMX版) / DP4a対応GPU (汎用版) |
画質の傾向 | ◎ (特に高画質、動きに強い) | 〇 (良好だが、動きでやや難ありの場合も) | ◎ (XMX版) / 〇 (DP4a版) |
パフォーマンス向上 | ◎ (特にDLSS3/4のFG/MFGは効果大) | ◎ (FSR3のフレーム生成含む) | ◎ |
対応タイトル数 | ◎ (非常に多い) | ◎ (多い、オープンソースで増加傾向) | 〇 (増加中だが、まだ少なめ) |
フレーム生成 | あり (DLSS 3/4: RTX 40/50シリーズ) | あり (FSR 3: Radeon/GeForce等で利用可) | なし (将来的に対応の可能性あり) |
メリット | 高画質、最先端機能 (FG/RR/MFG) | 圧倒的な互換性、オープンソース | AI利用(XMX)と汎用性(DP4a)の両立 |
デメリット | RTX GPUが必須、FG/MFGは世代限定 | DLSS比で画質が劣る場合あり | 対応タイトルがまだ少ない、DP4a版はXMX版より品質が劣る可能性 |
どの技術を選ぶべきか?判断のポイント
どのアップスケーリング技術を利用するか(あるいはできるか)は、以下の要素によって決まります。
-
使用しているグラフィックボード:
- NVIDIA GeForce RTXシリーズ → DLSS が第一候補。FSRやXeSS(DP4a)も利用可能な場合あり。
- AMD Radeonシリーズ → FSR が第一候補。XeSS(DP4a)も利用可能な場合あり。DLSSは利用不可。
- Intel Arcシリーズ → XeSS (XMX版) が第一候補。FSRも利用可能。DLSSは利用不可。
- NVIDIA GeForce GTXシリーズなど → FSR や XeSS (DP4a版) が利用可能な場合あり。DLSSは利用不可。
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プレイしたいゲームの対応状況:
ゲームがどの技術に対応しているかを確認する必要があります。一つのゲームが複数の技術に対応している場合もあります。
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画質とパフォーマンスの好み: 複数の技術が利用可能な場合、実際にゲーム内で設定を切り替えてみて、自分の好みに最も合うもの(画質、フレームレート、安定性など)を選ぶのが良いでしょう。
一般的には、対応GPUがあるならDLSSが画質面で有利とされることが多いですが、FSRやXeSSも進化を続けています。
近年では、複数のアップスケーリング技術に標準対応するゲームも増えています。自分の環境に合わせて最適な技術を選択し、快適なゲーミング体験を追求しましょう。
まとめ:DLSSを最大限に活用して快適なゲーミング環境を手に入れよう
この記事では、NVIDIAの革新的なAIアップスケーリング技術であるDLSSについて、その仕組みからメリット・デメリット、バージョンによる進化、設定方法、そして競合技術との比較まで詳しく解説してきました。
DLSSは今後も進化を続け、対応タイトルもさらに増えていくことが予想されます。AI技術の発展に伴い、画質やパフォーマンスはさらに向上し、フレーム生成などの機能もより洗練されていくでしょう。VRゲームやクラウドゲーミングといった分野での活用も期待されます。
NVIDIA DLSSは、現代のPCゲーミングにおいて欠かせない重要な技術の一つとなっています。もしあなたがGeForce RTXユーザーであれば、ぜひDLSSを活用して、より美しく、より滑らかで、より没入感のあるゲーミング体験を手に入れてください。まだRTXシリーズをお持ちでない方も、次回のPCアップグレードの際には、DLSSがもたらすメリットを考慮に入れてみてはいかがでしょうか。