この記事のポイント
- Azure Deployment Environmentsは、開発チームが統一された環境を迅速に構築できるクラウドサービスです
- テンプレートを使用した自動化により、環境構築の時間とコストを大幅に削減
- セキュリティとガバナンスの強化機能により、安全な開発環境を実現
- DevCenterを通じた一元管理で、複数プロジェクトの効率的な運用が可能
- サービス自体は無料で、デプロイされたAzureリソースに対してのみ課金
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
クラウド環境での開発・テストにおいて、効率的な環境構築と管理は重要な課題です。Azure Deployment Environmentsは、この課題に応えるMicrosoftの新しいソリューションとして注目を集めています。
本記事では、Azure Deployment Environmentsの基本概念から具体的な利用方法まで解説します。環境の自動構築、セキュリティ管理、コスト最適化など、主要な機能を詳しく紹介しながら、実践的な活用方法を探ります。
特に、DevCenterを使用した環境管理やテンプレートを活用した効率的なデプロイ方法など、運用面での具体的なメリットに焦点を当てて説明します。Azure環境での開発・テストの効率化を目指す方々に、有用な情報を提供できれば幸いです。
目次
Azure Deployment Environmentsとは
Azure Deployment Environmentsの概要
Azure Deployment Environments使用の流れと主要なコンポーネント
Azure Deployment Environmentsを用いた開発環境構築
Azure Deployment Environmentsの果たす役割
Azure Deployment Environments使用の際の注意点
Azure Deployment Environmentsとは
Azure Deployment Environmentsは、Microsoft Azureが提供する、開発やITチームが簡単に作業環境を作成し管理できるクラウドサービスです。このサービスを使うと、複数のプロジェクトやチームで同じ設定やポリシーを使った環境をすばやくセットアップできるため、環境構築が簡単になります。
またAzure Deployment Environmentsには、自動化、セキュリティ強化、コスト管理の機能が組み込まれているため、特に開発用やテスト用の環境を素早く用意するのに役立ちます。
安全で効率的なクラウドインフラの管理をサポートしてくれるAzure Deployment Environmentsについて今回解説します。
Azure Deployment Environmentsの概要
Azure Deployment Environmentsは、開発と運用を効率化するために設計されたクラウドサービスです。ここでは、Azure Deployment Environmentsの主要な特徴をご紹介します。
自動化された環境構築
Azure Deployment Environmentsでは、あらかじめ設定したテンプレートを使って、環境構築が自動的に行えます。例えば、新しいプロジェクトを開始する時に手作業で設定をする必要がなく、テンプレートを適用するだけで統一された環境をすぐに構築できるため、構築にかかる時間と労力が大幅に削減されます。
セキュリティ強化
Azure Deployment Environmentsには、以下のようなセキュリティとガバナンスを強化するための機能が組み込まれています。
-
アクセス制御
AzureのマネージドIDとアクセス管理機能を活用し、各環境ごとに適切なアクセス権限を割り当てることができます。 -
一元管理によるガバナンスの向上
セキュリティポリシーを環境ごとに適用することで、統一されたセキュリティ基準を維持することができます。 -
データ保護
機密情報を扱う環境でも、ポリシー設定によってデータ保護やアクセス制限が自動で適用され、コンプライアンスを遵守することができます。
コスト管理の効率化
Azure Deployment Environmentsには、環境の構築・運用にかかるコストを最適化する機能が以下のように備わっています。特に開発やテストのように一時的に使用する環境においては、必要な分だけリソースを利用し、無駄なコストを削減できます。
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リソースのオンデマンド使用
必要なときに必要なリソースだけを使い、利用が終わったら簡単に削除できるため、コストの無駄がありません。 -
コスト追跡機能
各環境のリソース使用状況や消費コストをモニタリングし、運用コストの管理を一元化を図ることができます。 -
削除や再利用の自動化
開発やテストが完了した環境は、自動的に削除またはアーカイブできる設定が可能です。
環境の標準化による管理の簡素化
開発、テスト、本番といった環境をテンプレートとして保存し、どのプロジェクトでも共通して使用することで、設定のばらつきがなくなります。そのため、異なるチームやプロジェクト間でも、同じ基準で構築された環境が使えるようになり、運用のミスも減ります。
Azure Deployment Environments使用の流れと主要なコンポーネント
では次に、Azure Deployment Environmentsを使用する場合の流れと構成する主要な要素についてご紹介します。
Azure Deployment Environmentsの主要コンポーネント
(参考:マイクロソフト)
全体の流れ
流れは以下のようになります。
- オーナーがサブスクリプションとDev Centerの設置を行い、全体の基盤を準備。
- 開発インフラチームが以下の作業を通じて環境構築の土台を整備。
- Dev Center(デベロッパーセンター)の作成とプロジェクトの設定
- 標準化されたテンプレートを作成し、それをカタログに登録。このカタログは、GitHubやAzure DevOpsリポジトリと連携して管理される。
- 開発者がカタログから自分のプロジェクトや目的に合ったテンプレートを選ぶ。選択したテンプレートを基に、環境が自動的にデプロイされ、必要なリソースがAzure上で設定される。
主要な構成要素
上記で登場した、主要な構成要素についてここで説明します。
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サブスクリプションとオーナー
- サブスクリプションは、企業や組織の中でAzureのリソースを一括で管理するための単位です。
- オーナーはこのサブスクリプション全体を管理する役割を持つ人や権限を指します。
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Dev Center
Dev Center(デベロッパーセンター)は、サブスクリプション内に設置される「管理センター」のような存在です。複数のプロジェクト(チームや部署が行う仕事の単位)をまとめて管理し、それぞれに必要な設定やテンプレートを提供します。 -
プロジェクトと環境の種類
プロジェクトは、Dev Centerが管理する単位で、それぞれのチームや部署がAzure上で作業を進めるための「作業スペース」です。 -
テンプレートとカタログ
- テンプレートとは、環境を構築するための具体的な設定ファイルです。仮想マシン、ネットワーク、ストレージなどのAzureリソースの設定が記述されています。
- カタログは、テンプレートのセットです。このテンプレートには、サーバーやデータベースの設定など、環境の構成に必要な情報が含まれています。
Azure Deployment Environmentsを用いた開発環境構築
次に、ここでは上記の流れの中から、開発インフラチームと開発者がAzure Deployment Environmentsを用いて行う開発環境構築に絞った説明をします。
AzureDeploymentEnvironmentsイメージ図
この図は、Azure Deployment Environmentsがどのようにして、開発インフラチームと開発者が協力して効率的に環境をデプロイし、管理するかを示しています。
流れ
開発環境構築の流れは以下のとおりです。
開発インフラチーム: テンプレートとAzureマッピングを行う役割を担います。
↓
開発者: 開発インフラチームが用意したテンプレートとAzureマッピングを基にして、開発者は目的に応じて、オンデマンド、サンドボックス、またはCI/CD用のテンプレートを選びます。テンプレートを基に環境をデプロイし、必要なリソースがAzure上に自動的に展開されます。
Azure Deployment Environmentsの果たす役割
Azure Deployment Environmentsは、上記の工程において、以下のような形で役立っています。
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テンプレートとカタログによる管理
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開発インフラチームのテンプレート作成: Azure Deployment Environmentsは、開発インフラチームが必要なリソースと設定をあらかじめテンプレート化することで、一貫性のある構成の環境を提供できるようにします。
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Infrastructure-as-Code (IaC) テンプレートカタログ: IaC(Infrastructure as Code)テンプレートとは、サーバーやネットワークなどのインフラ構成をコード化したものです。Azure Deployment Environmentsでは、このIaCテンプレートを「カタログ」としてまとめて管理できます。
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Azureマッピングによる自動プロビジョニング
- Azure Deployment Environmentsは、テンプレートに記述されている設定やリソースの構成を、実際にAzure上のリソースとして展開・関連付け(マッピング)することで、必要なリソースが自動で展開される仕組みを提供します。開発者はテンプレートを選んでデプロイするだけで、設定や依存関係が自動的にプロビジョニングされ、複雑な設定作業が不要になります。
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様々な環境の提供
Azure Deployment Environmentsは、オンデマンド環境、サンドボックス環境、CI/CD環境のように用途に応じたテンプレートを提供し、開発チームが迅速かつ一貫性のある方法で環境を構築できるようにサポートします。-
オンデマンド環境
一時的な開発やテストなど、短期間の利用が必要なときにすぐにセットアップできる環境です。開発用の簡易的なリソース構成が含まれており、すぐに構築して利用し、不要になれば簡単に削除できるように設計されています。 -
サンドボックス用環境
新しい機能の試験や実験的な開発に使用される、他の環境に影響を与えない独立した環境です。サンドボックス環境は、プロダクション環境に影響を与えないように分離された設定が含まれており、実験やテストを安全に行えるように構築されています。 -
CI/CD用環境
CI/CDパイプライン環境は、コードの開発からテスト、デプロイまでを自動化するために最適化された環境です。継続的インテグレーション(CI)や継続的デプロイ(CD)用の環境で、コードのテスト・デプロイを自動化するために使用されます。
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こうした環境をAzure Deployment Environmentsを用いて構築することで、開発の柔軟性と効率が向上します。
手順
Azure デベロッパーセンターの作成
ここでは、上記の全体の流れのうち、Azure デベロッパーセンターの作成手順についてご紹介します。
※ 前提準備:以下を用意する必要があります。
- Azureアカウント、サブスクリプション、リソースグループ
ステップ1: Azureポータルにサインイン
- Azureポータルにアクセスし、Azureアカウントでサインインします。
Azureポータル画面
アカウント作成についてはこちらもご覧ください。
【関連記事】
➡️Azure Portalとは?操作方法やメリットをわかりやすく解説!
ステップ2: デベロッパーセンターの作成
2. Azureポータル画面の「リソースの作成」で「dev center」で検索し、「作成」をクリックします。
デベロッパーセンター選択画面
-
「デベロッパーセンターの作成」画面、「基本」タブで適切な設定をします。
「次 : 設定 > 」をクリックします。
基本タブ画面
-
「設定」タブで適切な設定をします。
「レビューと作成」をクリックします。
設定タブ画面
-
「レビュー」タブで設定が適切なことを確認します。
「作成」をクリックします。
レビュータブ画面
料金面
Azure Deployment Environmentsは現在、無料で利用できるサービスです。ただし、このサービスを通じてデプロイされた環境で使用されるAzureリソース(コンピューティング、ストレージ、ネットワーキングなど)には、通常の料金が適用されます。なお、Azure デプロイメント環境には以下のような制限があります。
項目 | 制限内容 |
---|---|
Azure サブスクリプションごとのリージョンごとの月あたりのランタイム制限 | 200分/月 (リージョンごと) |
デプロイごとのランタイム制限 | 10分 |
環境ごとのストレージ上限 | 1GB |
※料金は変更される可能性があるため、公式ページで最新情報を確認してください。
Azure Deployment Environments使用の際の注意点
Azure Deployment Environmentsを使用するにあたっては、以下の点に注意することが大切です。
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テンプレートの適切な管理:
- 環境テンプレートが古くならないように、定期的にレビューと更新を行い、常に最新の環境を利用できるようにする。
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リソースの過剰プロビジョニング防止:
- 必要以上のリソースを使用しないよう、環境のサイズや構成を慎重に設定し、コストを最適化する。
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アクセス制御の厳密な設定:
- 開発環境へのアクセス権限を適切に設定し、不要なユーザーが重要なリソースにアクセスできないようにする。
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セキュリティ設定の強化:
- インターネットに接続する環境では、不要なポートの閉鎖や定期的なセキュリティパッチの適用など、セキュリティを強化する対策が必要。
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リソース消費のモニタリング:
- 環境のリソース消費を定期的にモニタリングし、異常がないかを確認することで、問題を早期に発見し、対処する。
Azure Deployment Environmentsの利用シーン
ここでは、Azure Deployment Environmentsの具体的な活用場面についてまとめました。
開発・テスト環境の迅速なセットアップ
Azure Deployment Environmentsは、必要なときに即座に開発やテスト環境を構築できる効率的なツールです。短期間でのプロジェクトや試験的な機能追加が求められる場合に、オンデマンドでの環境セットアップが特に役立ちます。
具体例:
- 短期開発プロジェクト: 数週間でリリースが求められる新しいアプリケーションや機能の追加プロジェクトで、即座に環境を用意して作業を始めたい場合。
- 機能テスト: 既存のシステムに新機能を追加した影響範囲を確認するために、他の環境から独立したテスト環境を迅速に用意する必要がある場合。
- バグ修正の検証: 本番環境で発見されたバグの再現と修正を検証するために、テスト環境を迅速に構築し、修正が正しく動作するかを確認したい場合。
マルチプロジェクトでの一貫性のある環境提供
異なるチームが同じ基準で環境を構築できるようにしたい場合、Azure Deployment Environmentsを使うことで、設定や構成が標準化され、各チームの環境が一貫性を持ち、運用管理の手間が軽減されます。
具体例:
- 大規模プロジェクト: 複数のチームが並行して異なる機能を開発する大規模なアプリケーションで、各チームが同じ環境構成を使用することで、テスト結果やパフォーマンスの一貫性を維持できます。
- グローバルな開発チーム: 異なる地域の開発チームが同じプロジェクトの一部を担当する際、Azure Deployment Environmentsを使って同じ設定の環境を迅速に展開し、地域間の環境差異を防止できます。
セキュリティ要件に対応した環境のプロビジョニング
開発から本番まで、セキュリティとガバナンスを強化したい場合、Azure Deployment Environmentsを活用すればセキュリティリスクが軽減され、コンプライアンスを守りながら運用することができます。
具体例:
- 機密データの保護: 金融システムや医療システムなど、機密情報を扱うアプリケーションで、開発段階から厳密なセキュリティ設定が求められるケース。
- アクセス制御が厳格なプロジェクト: アクセス権限を厳密に管理する必要がある企業プロジェクトで、AzureのマネージドIDとアクセスコントロールを利用して、各環境に適切な権限を一括で設定できます。
- コンプライアンス対応: GDPRやHIPAAのようなコンプライアンス基準に沿った環境を構築し、データ保護やアクセスログの管理を徹底する場合。
まとめ
この記事では、Azure Deployment Environmentsの概要、構成要素、作成手順、料金、そして具体的な活用場面について詳しくご紹介しました。
Azure Deployment Environmentsは、IaC(Infrastructure as Code)テンプレートを活用し、迅速かつ一貫性のある環境構築を支援する強力なサービスです。このサービスを使えば、開発からテスト、運用に至るまで、さまざまなプロジェクトのニーズに応じたAzure環境を簡単にセットアップできます。また、企業のリソースを効率よく管理し、セキュリティとガバナンスを強化するための高度な管理機能が含まれており、リソースの一元管理や自動化も実現可能です。
今後、Azure Deployment Environmentsではセキュリティ機能のさらなる強化や、DevOpsツールとの高度な連携、自動化機能の向上が期待されています。これにより、より高いセキュリティ要件や迅速なデプロイ要求に応えつつ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業にとって、重要な開発・運用インフラの基盤としての役割が拡大するでしょう。
Azure Deployment Environmentsを導入することで、効率的で柔軟な開発環境を実現し、組織のDX推進や業務効率の向上に役立てていただければと思います。本記事が皆様のAzure活用の一助となれば幸いです。ぜひ、この機会にAzure Deployment Environmentsの導入をご検討ください。