この記事のポイント
イレブンラボは、音声合成に特化した米国のスタートアップ企業で、自然な音声生成技術を提供しています。
音声クローニング技術により、特定の話者の声をリアルに再現することが可能です。
イレブンラボの使い方は、APIを通じて簡単に音声合成を行うことができ、さまざまなアプリケーションに統合できます。
2025年4月に日本法人を設立し、日本市場への本格展開を図っています。

Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
近年、生成AIの進化により「声」もAIでつくる時代が到来しています。その中でも注目を集めているのが、米国発の音声合成AI企業「ElevenLabs(イレブンラボ)」です。
自然なイントネーションと感情豊かな話し声を再現できる同社の技術は、世界中のクリエイターや企業から高い評価を得ています。
本記事では、イレブンラボの概要や提供技術、日本法人設立の背景、今後の戦略までを詳しく解説します。
目次
イレブンラボ(ElevenLabs)とは?
イレブンラボ(ElevenLabs)
イレブンラボ(ElevenLabs)は、音声合成に特化したスタートアップとして米国で誕生しました。同社が提供するText-to-Speech(TTS)技術は、従来の機械的な合成音とは一線を画し、まるで人間が話しているかのような自然な音声を再現できる点が最大の特徴です。
2025年1月にはシリーズCラウンドで1億8000万ドル(約270億円)を調達し、企業評価額は10億ドルを突破。わずか数年でユニコーン企業の仲間入りを果たしました。この急成長の背景には、以下のような技術的強みと市場ニーズのマッチがあります。
- 音声の感情や抑揚を表現する「音声クローニング」技術
- 多言語・多話者対応によるグローバル展開力
- Web APIとして提供される高い利便性と柔軟なカスタマイズ性
エンターテインメントや教育、ビジネスナレーションなど、幅広い分野での音声生成ニーズに応えられることから、国際的に急速にユーザー数を伸ばしています。
主な技術とサービス内容
主な機能
イレブンラボが提供する主な技術・サービスは以下の通りです:
項目 | 内容 |
---|---|
TTS(Text-to-Speech) | 入力されたテキストを、自然で聞き取りやすい音声に変換。イントネーションや抑揚も反映可能。 |
音声クローニング | 任意の話者の声を数分の音声から再現。本人そっくりの声で新たなコンテンツを生成可能。 |
多言語対応 | 日本語、英語、韓国語、フランス語など複数言語での音声生成に対応。 |
開発者向けAPI | 高性能な音声合成をAPI経由で利用可能。アプリ、ウェブ、ゲームなどに統合できる。 |
特に注目されているのが、話者の個性や感情までも再現するリアルな音声クローニング技術です。本人に許可を得た上での「デジタルツイン」や、アクセシビリティ向上に活用されるなど、社会的意義のあるユースケースも生まれています。
イレブンラボの使い方|誰でも簡単に始められる音声AIツール
イレブンラボ(ElevenLabs)のサービスは、Webブラウザから直感的に利用できるため、エンジニア以外でもすぐに使い始めることができます。また、開発者向けのAPIも提供されており、用途に応じて使い分けることが可能です。
実際の使い方のステップ
-
公式サイトにアクセス
https://www.elevenlabs.io/ にアクセスし、アカウントを作成(Google連携やメール登録が可能)。 -
好きな機能を選択
テキストを入力し、話者・言語・音声スタイルを選択。
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音声を生成・再生・ダウンロード
再生ボタンをクリックするとワンクリックで自然な音声が生成され、すぐにMP3で保存可能。 -
音声のカスタマイズ
音声速度、感情の強さ、イントネーションなどを微調整できます。
ログインしなくてもある程度の機能をお試しすることはできますが、ログインすることで、より多くの機能や音声生成が可能になります。
ログイン後の生成画面
開発者向け:APIでの統合
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APIキーの取得
ユーザーダッシュボードからAPIトークンを発行。 -
エンドポイント呼び出し
テキストと設定をJSONで渡すだけで、音声ファイルが返されます。例:curl -X POST https://api.elevenlabs.io/v1/text-to-speech/{voice_id} \ -H "xi-api-key: {API_KEY}" \ -H "Content-Type: application/json" \ -d '{ "text": "こんにちは、こちらはイレブンラボの音声合成です。", "voice_settings": { "stability": 0.75, "similarity_boost": 0.85 } }'
-
用途例
- 読み上げアプリ
- 動画ナレーション
- カスタマーサポート用AI
- 多言語音声案内システム
イレブンラボの料金体系
料金
イレブンラボは無料プラン(Free)から有料プランまで複数の料金体系が用意されています。用途やボリュームに応じて柔軟に選べます。
プラン名 | 月額料金(USD) | 音声生成上限 | Voice Cloning | 商用利用 |
---|---|---|---|---|
Free | $0 | 約20,000文字(毎月) | ❌(不可) | ❌(非商用のみ) |
Starter | $5 | 約60,000文字 | ✅(1声まで) | ✅(制限あり) |
Creator | $22(初月半額) | 約200,000文字 | ✅(3声まで) | ✅ |
Pro | $99 | 約1000,000文字 | ✅(10声まで) | ✅(優先対応) |
Enterprise | 要問い合わせ | カスタム | ✅(無制限) | ✅(専用契約) |
※価格は2025年4月時点の情報です。最新情報やより詳細な情報は公式料金ページを参照してください。
補足ポイント:
- 文字数ベースの課金:テキストの文字数に応じて音声生成量が制限されます。
- 音声保持期間:無料プランでは生成された音声の保存期間が短いので注意。
- 商用利用制限:Freeプランは試用目的のみ。YouTubeや業務での使用には有料プランが必要です。
イレブンラボジャパン合同会社とは?
2025年4月、イレブンラボは日本初の海外拠点として「イレブンラボジャパン合同会社(ElevenLabs Japan G.K.)」を東京都千代田区に設立しました。日本および韓国市場での本格展開に向けた重要な一歩です。
日本法人の代表には、テック業界で豊富な経験を持つ田村 元(たむら はじめ)氏が就任。田村氏はSAPジャパンやMicrosoft、Asana Japanなどで経営・マーケティングの要職を歴任しており、アジア地域におけるビジネス拡大を担う人物として期待されています。
- 設立日:2025年4月14日
- 所在地:東京都千代田区丸の内1丁目6番5号
- 代表:田村 元(Japan & Korea ゼネラルマネージャー)
日本法人設立の狙い
イレブンラボが日本法人を設立した背景には、以下のような目的があります:
-
日本語・韓国語へのローカライズ強化
音声合成は言語や文化ごとの微妙なニュアンスに対応する必要があります。日本語特有のリズムや敬語、感情表現に最適化された技術開発を日本から推進する狙いです。 -
現地顧客への直接サポート
BtoB(法人向け)顧客への営業・技術支援を現地で迅速に提供することで、導入の障壁を下げ、事業機会の拡大を図ります。 -
人材採用とローカル開発体制の確立
2025年中に10名以上の採用を計画しており、技術・営業・マーケティングの各部門での強化が期待されています。
イレブンラボは、日本をアジア市場へのハブと位置づけ、将来的にはグローバル全体での製品展開やカスタマイズ対応をリードする拠点とする方針を掲げています。
活用事例と国内パートナー
すでに日本企業でもイレブンラボの技術が活用されています。以下はその一部です。
TBSとの連携:テレビ番組への音声AI導入
TBSとの連携
イレブンラボの技術は、すでに日本のエンタメ業界でも活用が始まっています。その代表的な事例が、**TBS(東京放送ホールディングス)**との連携です。
2024年に放送されたTBSのバラエティ番組『KASSO』では、イレブンラボの音声合成技術が番組内のAI吹き替えシーンに採用されました。人手によるナレーションを行わず、AIが複数の言語で自然な音声を生成し、マルチリンガル対応の実現に成功しています。
吹き替え
これにより、国際向けコンテンツの制作効率が大幅に向上し、音声収録にかかるコストや時間を削減できるという新たな制作モデルが示されました。
【参考:https://elevenlabs.io/ja/blog/kasso】
通信・韓国メディア企業との技術連携
TBS以外にも、以下のような国内外のパートナー企業と提携しています。
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NTTドコモ(DOCOMO Innovations, Inc.)
シリコンバレーに拠点を持つR&Dチームと連携し、日本市場におけるTTS技術の評価・PoC(実証実験)を推進中。 -
MBC C&I(韓国)
韓国の大手制作会社と協業し、AI映像制作コンテンツを共同開発。2024年には、Korea International AI Film Festivalでグランプリを受賞した作品にイレブンラボの音声技術が使用されました。 -
LLSOLLU(韓国のローカライズ企業)
ローカル言語での音声生成・吹き替えの最適化を進めており、日本語や韓国語特有の音韻構造に対する対応力がさらに強化されています。
これらの取り組みは、アジア全体における音声AIの活用を加速させ、生成AIと映像・音響分野の融合を象徴する事例となっています。
イレブンラボの社会的意義と今後の展望
イレブンラボの技術は、エンタメやビジネス用途だけでなく、社会的な意義を持つ分野でも注目されています。
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視覚障がい者向けの音声案内
駅構内や施設でのアナウンスに自然な音声を導入することで、理解しやすさを大幅に向上。 -
高齢者向け音声サポート
読み上げ機能付きのWebサイトやアプリケーションにより、高齢者の情報アクセスを支援。 -
教育現場での読み上げ教材
学習障がいや外国語学習者への多言語読み上げによる補助的教材としての利用。
AIによる音声生成は「人に寄り添う技術」として、インクルーシブな社会の実現にも貢献できるポテンシャルを持っています。
まとめ|イレブンラボが変える「声」の未来
イレブンラボ(ElevenLabs)は、音声合成AIの分野において技術的にもビジネス的にも革新をもたらしている企業です。日本法人の設立によって、アジア市場でのプレゼンスはさらに高まり、「自然で多言語な声」を活用した新たなユーザー体験が広がろうとしています。
企業だけでなく、個人や公共機関など多様なプレイヤーがこの技術を活用することで、AIと人間の新しい関係性が生まれていくでしょう。これからの「声」を変える主役として、イレブンラボの動向に引き続き注目です。
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