この記事のポイント
- この記事は、生成AI利用のガイドラインを作成している各機関の取り組み内容を20選紹介しています。
- 自社の生成AIガイドライン作成の参考資料や、業務プロセスへの組み込み方についても触れています。
- 記事では、産官学が公表した生成AIガイドラインを目的別、対象別に徹底解説しています。
- 企業や組織が自らのガイドラインを策定する際の参考情報やAIを個別の業務プロセスに組み込むためのハンズオン情報が提供されています。
- ガイドラインが果たすべき役割とその策定のポイントについても考察されています。
監修者プロフィール
坂本 将磨
Microsoft AIパートナー、LinkX Japan代表。東京工業大学大学院で技術経営修士取得、研究領域:自然言語処理、金融工学。NHK放送技術研究所でAI、ブロックチェーン研究に従事。学会発表、国際ジャーナル投稿、経営情報学会全国研究発表大会にて優秀賞受賞。シンガポールでのIT、Web3事業の創業と経営を経て、LinkX Japan株式会社を創業。
生成AIの活用はビジネスのみならず、教育や行政などさまざまな分野でその可能性が見込まれていますが、法的・倫理的なリスクの管理もまた企業組織の重要な課題です。
本記事では、様々な場面での生成AIの有効活用をサポートするために産官学が公表したガイドラインを、目的別、対象別に徹底解説します。
企業や組織が自らのガイドラインを策定する際の参考情報はもちろん、AIを個別の業務プロセスに組み込むためのハンズオン情報についてもご紹介し、ガイドラインが果たすべき役割とその策定のポイントについて考察します。
AI導入を検討する際の指南書として、また既存のガイドラインの活用術としても活用いただける内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
ChatGPTについて詳しく知りたい方はこちらもご覧ください↓ ➡️ChatGPTって何?今さら聞けない基礎知識を徹底解説
生成AIガイドラインとは
生成AIガイドラインは、「生成AI(Generative AI)を開発・運用・利用する際に、技術的、倫理的、社会的観点から考慮すべき原則やルールをまとめた指針です。これらのガイドラインは、生成AIの利用が人々や社会にとって安全で公平であることを保証し、悪用や誤用を防ぐことを目的としています。
主要な内容と目的
以下は、生成AIガイドラインで一般的に取り上げられる項目です。
1. 技術的ガイドライン
- 透明性: 生成されたコンテンツがAIによるものであることを明示する。
- データの品質: 公平でバイアスのない学習データを使用し、適切な検証を行う。
- セキュリティ: APIやモデルが不正アクセスや悪用から保護されるよう、強固なセキュリティを確保する。
- 性能とスケーラビリティ: 実用化の際に、十分な応答速度と高い精度を維持する設計を行う。
2. 倫理的ガイドライン
- 公平性と非差別性: モデルが特定の性別、民族、国籍などに偏らないように設計する。
- プライバシー保護: 個人情報をモデルに含めない、または不適切に使用しない。
- 悪用防止: 有害なコンテンツ(フェイクニュース、偽情報、暴力的・不適切なコンテンツなど)の生成を防ぐ仕組みを設ける。
3. 社会的ガイドライン
- 責任の所在: コンテンツの生成や利用における責任を明確にする。
- 透明な運用: 利用者が生成AIの仕組みや限界を理解できるよう説明を行う。
- 影響評価: 社会的、経済的、文化的影響を定期的に評価し、改善策を講じる。
これらの内容をチェッし、適切に生成AIを使用していきましょう。
次に今まで公開されている生成AIのガイドライン20選をご紹介いたします。
生成AIガイドラインを策定する主要機関
以下は、生成AIガイドラインを策定・推進している主要な組織です。
機関名 | 概要 | リンク |
---|---|---|
OECD | AIの責任ある運用を推進する国際的ガイドライン「OECD AI原則」を策定。生成AIにも適用される。 | OECD AI Principles |
EU | AI規制法案(AI Act)を策定し、生成AIに関する透明性や安全性を重視した規制を導入予定。 | European AI Act |
OpenAI | 生成AIの安全性や倫理的利用に関する自社ガイドラインを公開し、開発者や利用者向けのベストプラクティスを提供。 | OpenAI Policy |
「AIの倫理ガイドライン」を策定し、生成AI技術の開発と利用における責任を強調。 | Google AI Principles |
日本における生成AIガイドライン
日本においても生成AIの利用に関するガイドラインは多数公開されていますが、その利用目的に応じて参照すべき内容が異なります。
以下は、目的別に分類した代表的なガイドラインをまとめました。ガイドラインの詳細は下記に別途まとめます。
生成AIガイドラインの一覧
目的 | 対象 | 表紙画像 | 作成機関名 | 重点の置かれている内容 | URL |
---|---|---|---|---|---|
ガイドライン作成 | 一般企業・法人 | 日本ディープラーニング協会(JDLA) | ガイドライン作成のための指針 | 生成AIの利用ガイドラインの作成にあたって | |
ガイドライン作成 | 一般企業・法人 | ATORIA法律事務所 | ガイドライン作成時の法的リスク評価について | 生成AIの利用ガイドライン作成のための手引き | |
AI導入 | 一般企業・法人 | デジタル庁 | APIを用いたGPTの導入方法解説 | ChatGPTを業務に組み込むためのハンズオン | |
AI導入 | 中小企業 | 東京商工会議所 | GPTを用いた具体的な業務効率方法 | 中小企業のための「生成AI」活用入門ガイド | |
AI活用 | 全産業分野 | 総務庁 | AI活用の理念と原則 | AI利活用ガイドライン | |
AI導入 | ヘルスケア領域・企業 | 日本総研 | ヘルスケア領域におけるAI導入のガイドライン | ヘルスケア事業者のための生成AI活用ガイド | |
ガイドライン作成 | 金融業界・企業 | 一般社団法人金融データ活用推進協会 | 金融業界におけるAI導入ガイドライン(未完成) | 生成AIガイドラインの策定メンバー決定のお知らせ | |
AI導入 | 自治体 | 総務庁 | AI導入の手順と成功事例集 | 自治体におけるAI活用・導入ガイドブック | |
教育分野 | 小中学校 | 文部科学省 | 小中学生の教育におけるAI利用のガイドライン | 初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン | |
教育分野 | 教育委員会 | 佐賀県教育委員会 | 佐賀県教育委員会によるAI活用ガイドライン | 生成AI利用ガイドライン | |
教育分野 | 自治体教育分野 | 戸田市 | 戸田市によるAI活用ガイドライン | 戸田市の教育における生成AIの利用に関するガイドライン |
公的機関、大企業の内部向けの生成AIガイドライン事例一覧
こちらは各機関が内部向けに作成したガイドラインの一覧です。
組織形態 | 表紙画像 | 作成機関名 | URL |
---|---|---|---|
行政機関 | 東京都デジタルサービス局 | 文章生成AI利活用ガイドライン | |
企業 | 富士通 | Fujitsu生成AI利活用ガイドライン | |
高等学校 | 鷗友学園女子中学高等学校 | ChatGPTなどの生成系AIについてのガイドライン | |
大学 | 東京通信大学 | 生成AIツールの利用について | |
大学 | 群馬大学 | 教育における生成AIの利活用に関するガイドライン【学生向け】 |
企業に向けに公開されているガイドライン
では、上記表のガイドライン詳細をご紹介していきます。
デジタル庁
ChatGPTを業務に組み込むためのハンズオン
デジタル庁が公開した「ChatGPTを業務に組み込むためのハンズオン」では、ChatGPTのような生成AIを業務フローに組み込む方法を解説しています。
特に、APIの活用方法と、プロンプトエンジニアリングについて詳しく言及されています。具体的には、「法令検索APIの出力の法令文章をGPTAPIで要約する方法」といった例について、図解を用いたわかりやすい解説がされています。ハンズオン内では、アイデアとして浮かんだシステムを実際にAPIを用いて構築してみることの重要性が強調されています。
総務省
総務省の公表したAI利活用ガイドラインでは、主にAIの利活用を目的とする事業者向けに、AIと関わっていく際の心構えや注意点が体系的に説明されています。
具体的な内容としては、基本理念、AI利活用の10原則、及び生成AIの一般的な利用方法や、AI利活用原則を考慮すべきタイミングなどが記載されています。
セキュリティやプライバシーなど、AIを活用していく上で配慮すべき代表的な観点に関してもわかりやすく整理してあるため、特に、AI活用の際のトラブルを未然に防ぎたいと考えている方にはおすすめのガイドラインです。
また、総務省は、自治体向けに「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」も発表しており、AIの基礎知識から実践的な導入手順まで、初心者でも理解しやすい内容になっています。特に、日本全国の地方自治体の業務改善を目指すAI導入の成功事例が豊富に紹介されています。
東京商工会議所
東京商工会議所が2023年7月28日に発表した、中小企業が生成AI、特にChatGPTを活用するためのガイドです。
生成AIの基本概念の紹介に始まり、業務効率化や売上向上のための具体事例の紹介など、経営や運営の課題に基づいた生成AIの効果的な活用方法が解説されています。資料の最後には、生成AI活用の際の注意点にも触れられています。
AIを活用したいと考えている中小企業関係者の方にとっては大変参考になるガイドラインです。
日本総研
こちらは、日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)が2024年1月18日に「ヘルスケア領域において生成AIを活用したサービスを提供する事業者が参照するための自主ガイドライン」として発表したものになります。
他のガイドラインと比べて、特にヘルスケア領域に焦点を当てていることが特徴です。
ガイドラインの中では、生成AIのヘルスケア領域における近年の動向や、国内外での生成AI関連制度についての解説、データの取扱やセキュリティに関しての注意点などが言及されています。
一般社団法人金融データ活用推進協会
一般社団法人金融データ活用推進協会が、金融業界における生成AIの健全な利用を促進するためのガイドラインを策定するチームを決定したことを発表しました。(ガイドライン自体は、2024年4月の初版完成予定で、まだ発表されていません。)
ガイドライン策定には、金融機関、AIスタートアップ、専門家が参加し、現在進行系でガイドライン策定準備が進んでいます。
顧客サービスの向上や業務の効率化など、幅広い領域で高い効果を発揮すると期待されている金融業界におけるこうした動向は、生成AIガイドライン策定事例として注目すべきでしょう。
機関・企業が発表したガイドライン事例
自社用の生成AIガイドラインを作成する際に、他企業がすでに社員向けに発表しているガイドラインは先行事例として参考になります。
以下では、社内向けガイドラインの具体的な事例をいくつか上げていきます。
東京都デジタルサービス局
東京都デジタルサービス局が2023年8月に発表した文章生成AI(ChatGPTなど)の利用ガイドラインです。東京都職員がAIを業務に効果的に活用するための指針を提供することを目的としたもので、内容には、AIの基本的な特徴、活用可能性とリスク、都の取り組み方向性、効果的な活用方法などが含まれています。また、安全な利用のための具体的な指示や、AIを活用した業務改善のアイデアも掲載されています。
富士通
富士通は2024年1月12日に、自社従業員向けに「生成AI利活用ガイドライン」を発表しました。このガイドラインは、生成AIの倫理的・法的リスクに焦点を当て、安全な利用方法を提供することを目的としています。生成AIの概要、リスク、対策例を含む内容で構成されており、富士通はこれを社会全体で生成AIの利活用について考える一助としたいとしています。生成AIを業務の効率化に活用しつつも、安心安全なサービス提供を目指していることが伺えます。
教育場面における生成AIの活用に関して公的機関が公開したガイドライン
子供の教育現場における生成AIの活用に関して、市や国が発表したガイドラインを紹介します。
文部科学省
文部科学省が2023年7月4日に発表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」です。このガイドラインは、教育現場での生成AIの安全かつ効果的な利用を促進することを目的としています。内容には、生成AIの概要、教育利用の方向性、個人情報保護、教育情報セキュリティ、著作権保護などに関する暫定的な考え方や対策が含まれています。また、学校で生成AIを利用する際のチェックリストや主な対話型生成AIの概要も提供されています。
生成AIの教育現場での活用を考えている方や、こどもの生成AI使用に関して悩んでいらっしゃる親御さんなどは、まず参照すべき資料でしょう。
初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン
佐賀県教育委員会
佐賀教育委員会による、教育現場で生成AIを効果的に活用する方法を提供する目的で作成されガイドラインです。生成AIの教育利用における基本姿勢、活用例、留意点、そして児童生徒の情報活用能力の育成について詳述しており、教員や学校におけるAI活用の方針と実践的アドバイスを提供しています。
戸田市
文部科学省のガイドラインや戸田市の教育方針を参考にし、教員や学生が生成AIを利用する際の基本方針、適切な利用例、留意事項などを詳細に説明したガイドラインです。佐賀県のガイドラインとの違いとして、地域特有の教育環境やニーズに基づいて具体的な活用事例や段階的な導入計画を提案していたり、教員や職員に向けた生成AIの職場での利用方法などの解説を行っている点が挙げられます。
教育場面における生成AIの活用に関する校内向けガイドライン事例
家庭や学校におけるAIの活用に関しては、国や市だけでなく、各学校や法人が個別に方針を示している場合があります。
鷗友学園女子中学高等学校
鷗友学園女子学園が、中高の生徒へ向けて発表した生成AI使用に関するガイドラインです。生成AIを全面禁止とはせず、教育的価値を見極めつつ、生徒の自主性と倫理を尊重する利用を求めるというような学校側の見解を示しています。特に、生成AIの出力を課題やレポートにそのまま使用することの避けるよう指導し、教員の指示に従うことを強調しています。ガイドラインの文量は短く、簡潔に生成AI関する方針を発表している良い事例でしょう。
東京通信大学
東京通信大学が、校内の学生に向けて発表したガイドラインでは、授業での使用時に気をつけるべきことや、学校側の生成AIへの見解が簡潔にまとめてあります。
群馬大学
群馬大学も、校内の学生向けにガイドラインを発表しています。ガイドライン内では、特に使用するデータや成果物の扱いには細心の注意が必要なことが言及されており、情報の正確性を確認するファクトチェックと、剽窃のリスクへの留意が強調されています。
教育における生成AIの利活用に関するガイドライン【学生向け】
生成AIガイドライン作成のためのガイドライン
生成AIのガイドライン作成を考えている人に向けて、参考になるガイドラインを紹介します。
日本ディープラーニング協会(JDLA)
日本ディープラーニング協会が提供する生成AI利用のためのガイドラインは、組織がAIを効果的に活用するための基盤を提供します。このガイドラインは、生成AIガイドラインを作成する際の雛形として参考にできるものです。それぞれの組織内での活用目的等に照らして、適宜、必要な追加や修正を加えるだけでガイドラインを作成することができます。日本ディープラーニング協会はこのサイト内で随時、研究成果の発表も行っており、雛形に関しても継続的な改訂が予定されています。
ATORIA法律事務所
ATORIA法律事務所は、LLMを用いたサービスの利活用に関して、法的なリスク評価に注目し、生成AIの利用ガイドライン作成のための手引きを発表しています。特に、個人情報の取扱、著作権や秘密情報などに関して、重点的に解説しています。
各分野での生成AIガイドラインの策定が重要な理由
なぜ、各分野での生成AIガイドラインの策定がこれほど重要視されているのでしょうか? そこにはやはり、AI活用に伴うリスクが関係 しています。
生成AIの導入は、日本の大企業が体験したように、正しく利用すれば業務効率化によるリスク削減などを通じて大きな利益に繋がります。一方で、ースコード流出事例のように、機密情報の漏洩などの重大なリスクも伴います。また、生成AI活用のリスクは、情報漏洩だけでなく、著作権侵害などの権利問題、ハルシネーションといったAI自体の欠点によるユーザーへの被害や、AI技術の悪用など倫理的なものまで含まれます。
こうした背景を踏まえて、リスク管理のためのガイドライン策定が叫ばれているのです。
社内ガイドライン作成時のポイント
社内のガイドライン
生成AIガイドラインを作成する際には、他社のガイドラインや雛形を参考にするだけでなく、自社の方針や生成AIに関する法律・技術的課題を明確にすることが重要です。以下は基本的な流れです:
-
方針の検討
AI導入において、利用をどの程度促進・制限するかなど、企業としての大方針を明確にします。 -
リスク対策の確認
既存の社内ポリシーをAI利用時のリスク(例:情報漏洩)と照らし合わせ、必要な防止策を検討します。 -
技術的アプローチの決定
自社サーバー構築、外部サービスの活用、独自の学習メカニズム開発など、目的に適した技術的方針を定めます。
これらを基に具体的な利用手順や適用業務をガイドラインにまとめ、安全かつ効率的なAI利用を目指しましょう。
G7が合意したAI活用の"5原則"
ガイドライン作成時には、国際的なAI利用の指針を念頭に置くことも重要です。G7デジタル・技術相会合では以下の5原則が合意されました:
- 法の支配の遵守
- 人権の尊重
- 適正な手続きの確保
- 民主主義の推進
- 技術革新の機会活用
日本ではこれを基に総務省が10の原則を策定し、AIの適正利用促進とリスク抑制を目指しています。これらの国際的原則を参考にしつつ、適正なAI活用を推奨するガイドラインを策定することが求められます。
まとめ
本記事では生成AIガイドラインのご紹介、その内容の解説および社内ガイドラインの作成方法まで徹底的に解説いたしました。生成AIの導入が進む中で社内でのガイドラインの作成は必須であり、急務です。
AI総合研究所では、社内ガイドラインの作成、研修、導入支援まで一気通貫でご支援しています。
まずはお気軽にご相談ください。